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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第9回 京都府京都市
京都大学医学部附属病院

●ゲスト

京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻
近未来システム・技術創造部門 教授
澤本 伸克 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 京都大学医学部附属病院の脳神経内科は、日本で最初に神経内科の病気を診る講座として発足した伝統ある診療科で、「治る脳神経内科」をモットーに患者さんの治療に取り組んでいます。またこれと同時に、一人ひとりの個性を尊ぶ京都大学の雰囲気を活かしたユニークな研究も行われています。
 今回は、京都大学大学院教授で、パーキンソン病の治療にもあたっておられる澤本伸克先生に、京都大学附属病院の特徴やパーキンソン病の症状と治療について、「手紙」などの作曲で知られる、シンガーソングライターの樋口了一さんがお聞きしました。

日本最初の神経内科学臨床講座として1980年に開設

澤本先生

樋口さん 今回は、パーキンソン病の新しい治療法の研究にも取り組んでおられる京都大学大学院医学研究科の澤本伸克先生においでいただきました。
 まず、京都大学附属病院の脳神経内科についてご紹介いただけますか。

澤本先生 京都大学附属病院の神経内科は、1980年に日本最初の神経内科の病気を診る講座として発足しました。2018年の6月からは、神経内科から脳神経内科に診療科名が変更になりましたが、以前からパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患、アルツハイマー病などの認知症、てんかん、脳卒中、頭痛など幅広い病気の治療にあたっています。また、「治る脳神経内科」をモットーに、臨床、教育、研究に一生懸命取り組んでいます。

樋口さん 京都大学といえば、iPS細胞を使ったパーキンソン病の治療が思い浮かびます。京都大学では、iPSに限らずユニークな研究をされているというイメージがあります。

澤本先生 そうですね、京都大学の特徴として「おもろい」を尊ぶという文化が昔からあります。つまり、人と違うことをすることはよいことだから、それぞれの個性を大切にして伸ばしてゆこうという雰囲気があります。また、多くの卒業生が全国の施設で活躍しています。

樋口さん それは、個性の強い人たちがそれぞれの方向に向かって力を発揮していて、同時にその中でネットワークもしっかりできているということですね。

パーキンソン病は症状の出かたもさまざま治療もさまざま

樋口さん

樋口さん 私自身も体の異常に気づいてから、パーキンソン病と診断がつくまでに2年ほどかかりましたが、やはり早い時期のパーキンソン病は診断が難しいということがあるのでしょうか。

澤本先生 そうですね、私たちが患者さんにパーキンソン病について説明する時、血圧との違いを例にしてお話することが多いのですが、血圧は「上の血圧がこれだけで下の血圧がこれだけだから高血圧で、治療でここまで下げればよい」と、診断も治療の目標も客観的な数字で決まっています。これに対して、パーキンソン病は症状を客観的に数字で表せるものではなく、症状の出かたも患者さんごとに異なりますし、困っておられることもそれぞれです。ですから、治療を始める時には、患者さんが何をどうしたいかということを十分にお聞きするということが重要です。そのうえで、色々ある治療方法の中でどの方法をどのように使いたいかということも、患者さんによくお聞きした上で決めてゆくということになります。

樋口さん 治療を始める前に、自分が困っていること、その困っていることをどの方法で治療したいかなどを、先生と十分お話することが大切なのですね。
 ところで私の場合、薬の効き目が弱くなるオフの時に、体幹のこわばりを感じて、L-ドパを飲めばこわばりは解消します。私のように、こわばりが主という患者さんもいらっしゃるのですか。

澤本先生 こわばりだけを感じるという患者さんもいらっしゃいます。パーキンソン病の症状は本当に千差万別で、例えば、体に違和感があるという方もおられます。患者さんが、「何となく違和感がある」とおっしゃるので「その違和感って何ですか」とお聞きすると、「違和感以外の言葉はないのですが・・・」と答えられます。
 そのような患者さんに対して、どこまで治療をしてゆくか、あるいはどこまで治療せずに様子をみるか、ということも患者さんの考え次第ということになります。患者さんが、「この症状がなくならないと困る」ということであれば、薬の種類や量の調整を考えます。これとは反対に「これ以上たくさんの薬は飲みたくない」とおっしゃれば、患者さんと医師が話し合って次にどうするか考えるということになります。

最近の治療と将来の治療

澤本先生

樋口さん パーキンソン病の治療では、L-ドパなどを飲むドパミン補充療法のほかにも、治療方法があるそうですね。

澤本先生 はい、一般的には、まず飲み薬や貼り薬による治療が行われますが、従来の治療で症状がうまくコントロールできなくなった場合には、デバイス補助療法という選択肢もあります。日本では、手術で脳に電極を入れて電気刺激を行う脳深部刺激療法(DBS)と、手術で胃ろうを作って、小腸に直接L-ドパを届かせる経腸療法が行われています。

樋口さん iPS細胞の移植についてはいかがですか。

澤本先生 iPS細胞はまだ実験的治療の段階で、実際に治療法として使えるのは、安全性と効果が確かめられてからということになります。

澤本先生が日常の診察で心がけていること

樋口さん

樋口さん 澤本先生が、日常の診察の中で心がけておられるのは、どんなことでしょう。

澤本先生 できるだけ前向きに患者さんと接するということです。後ろ向きに接していては、治る人も治らないでしょう。これは医師だけではなく、看護師やそのほかの医療従事者にもいえることだと思います。学生の指導に当たる時もこの点を強調しています。

樋口さん 私たちも前向きな気持ちでないと、歌がお客さんの心に届かないと感じます。

澤本先生 そうですね、元気に歌われていると、やはりその気持ちが伝わってきます。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。