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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第5回 岡山県岡山市
岡山旭東病院

●ゲスト

岡山旭東病院 脳神経内科部長
岡山脳神経内科クリニック 院長(2019年6月〜)
柏原 健一 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



岡山市の岡山旭東病院は、脳神経外科、整形外科、脳神経内科、リハビリテーション科などの脳・神経・運動器疾患を総合的に治療する専門病院です。院内には脳卒中センターをはじめ、サイバーナイフセンター、PET・RIセンター、健康センターなどが設けられています。
今回は同病院の脳神経内科部長である柏原健一先生に、パーキンソン病と向き合いながら音楽活動を継続されているシンガーソングライターの樋口了一さんが、病院の特徴をはじめ、脳神経内科の役割やパーキンソン病診療の現状などについてお聞きしました。

岡山旭東病院は脳、神経、運動器疾患の専門病院

柏原先生

樋口さん まず岡山旭東病院についてお話しいただけますか。

柏原先生 当院では、脳、神経、運動器などの病気に専門的に取り組んでいます。また、急性期病院ですから、救急の患者さんを多く診ています。

樋口さん 定期的に外来に来られる患者さんよりも救急の患者さんのほうが多いということですか。

柏原先生 そうですね。例えば、脳卒中の急性期で麻痺が強く、食べ物をうまく食べられないような患者さんは入院していただき、状態が安定するまでは当院で診ています。地域の医療機関との連携も積極的に行っていて、状態が安定した後は、必要に応じてリハビリテーションの専門施設やかかりつけ医に患者さんを紹介しています。ただし、パーキンソン病のように病状のコントロールに専門的知識が必要な病気の患者さんは、退院後も当院で継続して診ることがあります。

「少しずつ何かおかしい」場合には脳神経内科へ

樋口さん

樋口さん パーキンソン病の場合は脳卒中などとは違って、突然症状が悪化した状態で医療機関を受診するのではなく、最初は少し手がふるえるなどの症状で受診する方が多いと思います。私は最初に右手が少し動かしづらくなり、筋肉や骨に問題があると思ったので、整形外科や整体などに通っていました。脳神経内科にたどりつくまでに約2年かかりました。柏原先生は、体に異変を感じたときに最初に受診するのは整形外科と脳神経内科のどちらがよいと思われますか。

柏原先生 動きや痛みなどを総合的に診るのは内科系の診療科ですから、まずは脳神経内科を受診していただきたいですね。転んで骨折したという場合にはすぐに整形外科受診でよいと思いますが、「少しずつ何かおかしい」状態が広がっている場合は、脳や神経系の病気であることが多いですから、最初に脳神経内科を受診するのがよいと思います。脳神経内科では、患者さんにどの診療科に行っていただくかを決める、交通整理の役割をしている面もあります。

樋口さん 脳神経外科と脳神経内科はどのように役割を分担しているのですか。

柏原先生 当院では原則的には、手術が必要な病気は脳神経外科、服薬やリハビリテーションなどで治療が可能な病気は脳神経内科が担当します。脳卒中にはさまざまなタイプがありますが、脳出血の場合は脳神経外科、脳梗塞の場合は脳神経内科で治療を行います。

樋口さん 脳梗塞に関しては、脳神経内科が対応するのですね。

柏原先生 当院ではそのように振り分けていますが、脳神経内科が少ない地域では、脳神経外科で脳梗塞も診ていることもあります。また、整形外科との関係も同様で、例えば腰痛で手術が不要な場合は脳神経内科で対応することもあります。いずれにしても他の診療科との迅速な連携が重要です。

岡山旭東病院で行われているパーキンソン病の診療

柏原先生

樋口さん 岡山旭東病院の脳神経内科のパーキンソン病の診療についてお話しいただけますか。

柏原先生 私は週に2回「新患外来」を担当していますが、毎週10人くらい新規のパーキンソン病患者さんが来院されます。高齢の患者さんが多く、特に介護施設からの紹介が増えています。以前は脳血管障害の後遺症と片づけられていたような方々が紹介により当科を受診し、パーキンソン病と診断されるケースが増えている印象があります。

樋口さん パーキンソン病の診断技術の向上も患者さんが増えていることに関係しているのでしょうか。

柏原先生 そうですね。パーキンソン病の前駆症状で、嗅覚障害(においがわからなくなる)や寝言などの症状が現れることが多いなど、パーキンソン病に関する知識が蓄積されてきたことも診断につながっていると思います。当科には頭痛や肩こりなどの症状を訴える患者さんが多いのですが、私は診察室に入って来られた時の姿勢や表情なども観察し、パーキンソン病が疑われる場合は詳しく診察するようにしています。

「伝えなければ」という思いから勉強会を開催

樋口さん

樋口さん 柏原先生はパーキンソン病に関する書籍の監修や執筆、市民公開講座、勉強会などを通じて患者さんを支援されていますが、どのようなお気持ちから、そうした活動を続けているのでしょうか。

柏原先生 パーキンソン病の症状は多岐にわたり、服薬だけでなく、運動療法(リハビリテーション)、環境整備、食事の工夫など家族の支援も必要です。それらについて患者さんやご家族にゆっくり説明したいのですが、限られた診察時間のなかでは難しく、十分に伝えられないことに「申し訳ないな」という気持ちがありました。そこで、「何とかして伝えなければ」という思いから、患者さんやご家族を対象とした勉強会などを開くようになったのです。私はご家族の方もパーキンソン病への理解を深め、医療チームの一員となって、患者さんの服薬を見守ったり、運動を促していただきたいと考えています。

樋口さん 私自身、運動量が減っていても気づかないことが多いので、身近にいる家族から指摘してもらうことは重要だと思います。

柏原先生 パーキンソン病の患者さんにとって、前向きな気持ちを保つことはとても大切です。勉強会などでパーキンソン病に関する最新の情報を伝えることで、患者さんが希望を持ち、前向きな気持ちで病気に対応されるようになることを期待しています。

樋口さん 常に最新の情報を得ていることは安心にもつながると思います。柏原先生、今日は有意義なお話をありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。