脳神経内科
歴訪シリーズ
第4回 福岡県福岡市
福岡大学病院
●ゲスト
福岡大学病院 脳神経内科診療部長
福岡大学医学部 脳神経内科学教授
坪井 義夫 先生
●ホスト
シンガーソングライター
樋口 了一さん
福岡大学病院は1973年の開設以来、地域医療の中心的役割を果たしています。同病院では2017年に福岡大学病院網領を定め、大学病院として先進医療の提供、臨床研究の推進、医療人の育成を行っています。 今回は脳神経内科診療部長である坪井義夫先生に、パーキンソン病と向き合いながら音楽活動を継続されているシンガーソングライターの樋口了一さんが、病院の概要や脳神経内科の役割などについてお聞きしました。
「あたたかい医療」を目指す福岡大学病院
樋口さん まず福岡大学病院の特徴などについてご紹介いただきたいと思います。
坪井先生 当院は1973年8月4日に開設されました。現在の病床数は915床で、医師、看護師など約1940名の職員が「あたたかい医療」という基本理念のもと診療にあたっています。ハートセンター、脳卒中センター、腫瘍センター、呼吸器センター、消化器センター、総合周産期母子医療センター、小児医療センター、もの忘れ外来専門センター、パーキンソン病診療センターなどを立ち上げ、診療科の垣根を越えた診療体制でチーム医療を実践しています。
樋口さん センターというのは、異なる診療科が連携して患者さんを診ているということですか。
坪井先生 そのとおりです。例えば、ハートセンターでは、循環器内科、心臓血管外科、リハビリテーション科の医師や看護師などが協力しながら患者さんを診ています。私はパーキンソン病診療センターのセンター長も務めていますが、パーキンソン病患者さんが脳深部刺激療法(DBS)やL-ドパ持続経腸療法などを行う際には、カンファレンスを開いて脳神経内科だけでなく、関連する他の診療科の医師などの意見も聞いて判断しています。当院では、こうした横のつながりを大切にして総合的に患者さんを診ることを重視しているのです。
脳神経内科の役割
樋口さん 福岡大学病院の脳神経内科についてもご紹介いただけますか。
坪井先生 脳神経内科では、神経疾患を幅広く診ています。具体的には、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患、多発性硬化症などの神経免疫疾患、脳卒中、認知症、重症筋無力症や末梢神経疾患などです。当科を受診された患者さんの治療方針については複数の医師で話し合い、必要な検査や治療を決めるようにしています。当科には年間約610名の患者さんが入院されていますが、病棟医長を中心としたチームを編成し、ひとりの患者さんをチームで診るという「チーム主治医制」をとっています。
樋口さん 複数の医師が話し合って総合的に診ていただけると、私たち患者はとても心強いですね。続いて、受診する診療科の順番についてお聞きしたいのですが、例えば、手に異常を感じたときに、最初に受診するのは整形外科と脳神経内科のどちらがよいのでしょうか。
坪井先生 まずは脳神経内科を受診していただきたいですね。脳神経内科で診ることの多い症状として、頭痛、めまい、しびれなどがあります。例えば、手のしびれを訴える患者さんが脳神経内科を受診されて、診察の結果、しびれが頸椎から生じている場合は整形外科、脳腫瘍がある場合は脳神経外科というように、脳神経内科では次に受診すべき診療科を紹介する窓口の役割も果たします。
脳神経内科への速やかな受診を目指して
樋口さん 先ほどのお話では、まずは脳神経内科を受診とのことですが、そのためには脳神経内科の存在を強く打ち出していく必要がありますね。
坪井先生 そうですね。これまでの神経内科という名称では、精神神経科、精神科、心療内科などと混同されやすいことから、脳神経内科へ診療科名が変更されました。今後もさまざまな活動を通じて、脳神経内科とはどのような診療科なのかを広くアピールしていく必要があると感じています。また、自分が診た患者さんが専門外の病気であっても、その病気の専門医に紹介できる、道案内できることが大切だと考えています。
樋口さん 本来受診すべき診療科とは異なる診療科を受診してしまっても、最終的にはその病気に合った診療科にたどりつけるようなシステムがあれば、患者としてもとても安心できると思います。私は体に異変を感じてから約2年間、整形外科、整体、カイロプラクティック、噛み合わせなど十数ヵ所に及ぶ医療施設に通い、最後にようやく脳神経内科にたどり着き、パーキンソン病と診断されました。
坪井先生 かかりつけ医が患者さんを診たときにどのような疾患が疑われるか、ある程度気づいて専門医を紹介することで最短の道を歩めるようになると思います。私たちは勉強会などを通じて、地域のかかりつけ医の先生方にパーキンソン病や認知症などについて説明し、そうした疾患が疑われる患者さんは脳神経内科へご紹介いただくことをお願いしています。
パーキンソン病友の会の活動もサポート
樋口さん 坪井先生はパーキンソン病友の会の活動を積極的にサポートされているそうですね。
坪井先生 友の会の旅行に同行するなど、パーキンソン病の患者さんと接する機会をもつようにしています。こうした機会を通じて、患者さんからさまざまな情報を得ることができ、診療の糧になると感じています。
樋口さん 大きな病院ではひとりの患者さんにさける時間がどうしても短くなってしまうと思いますから、それを補う意味でもそうした活動は大切ということでしょうか。
坪井先生 そうですね。患者さんが実際どのような症状に困っておられるのかを聞き出すことができるほか、患者さんから質問を受けることで気づくことも多いですね。
今後の目標
樋口さん 最後に今後の目標について伺いたいと思います。福岡大学医学部神経内科学講座ではどのようなことを目標とされているのでしょうか。
坪井先生 当講座では優秀な臨床医、すなわち患者さんの話をよくお聞きして、幅広く診られる臨床医の育成を第一目標としています。また、家族性のパーキンソン病であるペリー症候群の研究にも取り組んでいます。
樋口さん 優秀な臨床医を育てることは、地域の医療の向上にもつながると思います。坪井先生、本日はありがとうございました。
樋口了一氏プロフィール
1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。