脳神経内科
歴訪シリーズ
第19回 順天堂大学医学部附属順天堂医院
脳神経内科
●ゲスト
順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 教授
服部 信孝 先生
●ホスト
シンガーソングライター
樋口 了一さん
ここ数年、病院などの医療機関で、神経内科を脳神経内科に改める流れがみられますが、順天堂大学脳神経内科は、50年前の設立当初から脳神経内科として、パーキンソン病をはじめ脳血管疾患や神経免疫疾患など幅広い脳神経内科領域の病気の克服に取り組んでこられました。
今回は、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科教授の服部信孝先生に、シンガーソングライターの樋口了一さんが、脳神経内科で行われている治療や、最先端の研究についてお聞きしました。
50年以上の歴史と豊富な経験があり、海外からも高い評価を受ける
樋口さん 「順天堂大学脳神経内科は50年の歴史をもつ日本屈指の神経学講座」とホームページ(https://www.juntendo-neurology.com/、2023年7月10日閲覧)に掲載されていますが、先生が目指しておられる治療についてお聞かせください。
服部先生 当院の脳神経内科は、初代教授楢林博太郎先生、第二代教授水野美邦先生、そして第三代教授である私で約50年の歴史がある、わが国で最も早く開設された脳神経内科で、歴史に裏付けられた豊富な経験と治療実績があります。現在、当科には、年間約8万人の神経難病などの患者さんが来院され、入院患者さんも年間約1000人にのぼります。
私は、「患者さんに寄り添う」ということを大切にしていますが、それには、エキスパートであることが重要だと考えています。エキスパートであることは、患者さんに安心感を与えます。その安心感によって、患者さんと医療関係者のコミュニケーションが十分に取れるようになり、それが患者さんに寄り添うことにつながると思っています。そのためには、ボランティア精神を持ち、人として一流であると同時に、医療の技術を磨くことが大切です。これらを踏まえて、治療も研究も世界に通用する高いレベルを目指しています。
実際、これまでの私たちの業績への評価として、2021年の米国ニューズウィーク誌のワールド・ベスト・スペシャライズド・ホスピタルの脳神経内科部門の世界第10位(日本の医療機関としては第1位)にランクされていますし、パーキンソンズ・ファウンデーションという世界的な患者団体からセンター・オブ・エクセレンスの指定を受けている日本で唯一の医療機関です(2023年7月10日インタビュー時)。今後とも、順天堂医院脳神経内科は、高度な治療の提供と、患者さんに寄り添うコミュニティーづくりのトップランナーでありたいと思っています。
樋口さん 研究ばかりでなく、治療もしっかり行っていこうという服部先生ご自身の姿勢がうかがえますが、同時に、エキスパート集団を目指すためには、優秀な脳神経内科医の育成が必要になるのではないですか。
服部先生 優秀な脳神経内科医の育成には、医学部附属病院において臨床、教育、研究の3つの役割が十分に果たされていることが大切です。若い医師への指導も厳しく行い、臨床と研究のバランスのとれた理想的な脳神経内科を目指して日々力を注いでいます。
パーキンソン病センターの設立を予定
樋口さん 脳神経内科では、パーキンソン病専門外来を設置されていますね。
服部先生 専門外来を置く病院は増えてきていますが、私たちは、今ある専門外来を発展させ、パーキンソン病センターを設立する予定です。パーキンソン病センターでは、脳神経内科医、看護師、薬剤師、理学療法士に加え、精神科や皮膚科など他科の先生方との協力体制を強化し、チームでパーキンソン病治療に取り組むことを目指します。パーキンソン病の知識を持った看護師が常駐するような体制を構築し、リハビリや従来の薬物療法だけではなくデバイス療法(DAT)にも、これまで以上に力をいれたいと考えています。
病院での診察以外の活動も
樋口さん 先生は、病院での診察以外でも患者さんのために時間をお使いになっていますね。
服部先生 病院での診察終了後の時間や土曜日を利用して、患者さんとご家族のための相談会を開いています。病気が進行しご家族の介護の負担が重くなってくると、家族関係が悪化する恐れがあります。それを誰かが横から支えないと本当に家族が崩壊してしまうので、負担が軽くなるようサポートをしています。「教授がそこまでやらなくても良いのでは」という人もいますが、私は、教授である前に医師であり、服部という人間であることがベースにあると考えています。
樋口さん 患者さんの職場に訪問されることもあるとお聞きしました。
服部先生 はい、患者さんへのサポートの一環です。患者さんの上司にお会いして、この病気はモチベーションが下がると動けなくなるなどの症状が強く出る反面、モチベーションが上がると健康な人と変わらないレベルで動けるので、そのあたりのご配慮をお願いしたいとお話します。
樋口さん 先ほどコミュニティーづくりのトップランナーでありたいともお話をされましたが、どのように活動をされているのですか。
服部先生 東京都パーキンソン病友の会の活動の一環として、毎年1泊2日の研修バス旅行を行っています。私を含め医師5人ほどが同行し、温泉に入ったりピンポンを楽しんだりするほか、患者さんとの面談も行います。医師にとっても、普段は外来でしかみられない患者さんの日常の様子を把握できることは勉強になります。
順天堂医院で開発が進められている新しい検査法
樋口さん 先生の教室では、パーキンソン病の新しい検査法の開発を進められているそうですね。
服部先生 はい。ご存じのようにパーキンソン病は、振戦などのパーキンソン症状が出る前から、脳内に不要な物質が溜まり始め、その量が増えてくるとパーキンソン症状が出ると考えられています。ですから、症状が出る前から診断がつけば、従来よりも早く治療を始めることができる可能性があります。
私たちは早期診断・早期治療の実現を目指して、新しい検査法を開発中です。この検査は、これまでは脳脊髄液でしかできなかった検査を、血液検査でできるようにしようというものです。脳脊髄液を採取するために背骨の間に針を刺すことは患者さんの体への負担も大きいので、それを血液で検査できることが期待されます。この研究成果は、海外の著名な医学誌ネイチャー・メディシンにも掲載されました。(Nature Medicine volume 29, pages1448–1455 (2023), https://www.nature.com/articles/s41591-023-02358-9、2023年7月10日閲覧 )
樋口さん 今回は、服部先生のお人柄や日常診療で目指されていること、そしてパーキンソン病の最先端の診断や治療についてお話をうかがうことができました。どんなことにも手を抜かないという、服部先生のお姿が印象的でした。ありがとうございました。
樋口了一氏プロフィール
1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。