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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第18回 地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立神経病院

●ゲスト

東京都立病院機構 東京都立神経病院 院長
高橋 一司 先生


東京都立病院機構 東京都立神経病院 脳神経内科医長、
パーキンソン病・運動障害疾患センターセンター長
齊藤 勇二 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 東京都府中市にある東京都立神経病院は、国内最大規模の神経難病専門の病院ですが、このたび、新たにパーキンソン病・運動障害疾患センターが設立され、パーキンソン病治療のさらなる充実が図られています。
 今回は、病院長の高橋一司先生、そしてパーキンソン病・運動障害疾患センター長の齊藤勇二先生に、パーキンソン病の診断と治療、患者さんへのサポート体制など、同病院の取り組みについて、シンガーソングライターでご自身もパーキンソン病患者である樋口了一さんが、お話をお聞きしました。

患者会の希望によって設立された病院で、脳、神経、筋肉の病気の専門病院

高橋先生

樋口さん まず、東京都立神経病院について、高橋先生からご紹介ください。

高橋先生 私ども東京都立神経病院には、大きく3つの特徴があると思います。
 まず、神経系の専門病院としては、国内最大規模の施設であることです。脳、神経、それから筋肉の病気を専門に診る病院で、特に神経難病を専門にしています。
 次に、患者さんのご希望によって作られた病院であることです。当院は1980年に開設されたのですが、それに先立つこと約10年前にスモンという病気が全国的に大きな問題になりました。現在では薬害であることが明らかになっていますが、当初は視神経と脊髄に障害が出る原因不明の難病とされていました。そこでスモンの患者会などから東京都に神経難病専門病院設立の要望が出され、これを受けて議論を重ね、当院開設の運びとなりました。私ども職員は、このことを肝に銘じて、真剣に診療に取り組んでいます。
 3つ目は、当院では、病気の診断から早期の段階、そして病状が進み対応が難しい症状が出てきている進行期の段階まで、さまざまなステージの患者さんへのさまざまな取り組みを一貫して行っていることです。それぞれの患者さんの状態に合わせ、入院での治療、外来での治療、良質なリハビリの提供など、最適と考えられる治療を提供します。また、患者さんがご自宅での療養を望まれる場合には、病院から医療スタッフが出向き在宅診療も行っています。さらに、地域の医療施設や訪問看護ステーションとも連携し地域診療をサポートする役割も担っています。新しい治療方法の開発にも貢献できるよう、臨床研究にも積極的に取り組んでいます。

齊藤先生 パーキンソン病は、診断まで時間がかかることがあります。当院のような専門病院の使命は、診断がつくまでの時間を短くし、患者さんがあちこちの医療機関を訪れる旅を早く終わらせることだと考えています。

指定難病で多いのは、神経と筋肉の病気

齊藤先生

樋口さん 指定難病の中で最も多いのは、神経、筋肉の病気だそうですが、具体的にはどのような病気があるのですか。

高橋先生 現在、300疾患以上の指定難病がありますが、そのうち約1/4は、神経と筋肉の病気(神経・筋疾患)です。当院の場合、入院患者さんの約半数は、パーキンソン病やパーキンソン症候群、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症などの神経変性疾患の患者さんです。当院では、開設当初からALSの治療に積極的に取り組み多くの患者さんに治療を提供してきましたが、現在は、パーキンソン病とパーキンソン病関連疾患の患者さんが一番多いですね。

齊藤先生 神経変性疾患という病気のグループの中ではアルツハイマー病の患者さんが一番多く、その次がパーキンソン病の患者さんです。パーキンソンという人の名前が付いていて、怖くて難しい病気という印象をお持ちかも知れませんが、神経の病気の中では決して珍しい病気ではなく、治療の選択肢も多く、研究も進んでいます。

東京都立神経病院脳神経内科について

樋口さん

樋口さん 東京都立神経病院脳神経内科について教えていただけますか。

高橋先生 当院のベッド数は約300床で、そのうち約2/3の218床が脳神経内科の患者さん向けで、約30人の医師が診療にあたっています。患者さんが初めて来院された時には、診断のための入院をお勧めし、診断の進め方を決めます。その後診断がついたら、患者さんに病気の進行状況や治療方法、今後の見通しなどを詳しく説明します。この入院による診断は、時間の限られた外来では難しい詳細な説明が可能で、患者さんの病気の理解や治療に取り組む姿勢を助けるうえで、とても大切なことだと考えています。
 当院には専門の医師だけでなく、難病診療の認定看護師(エキスパートナース)が多数在籍しています。診断の段階から入院をお勧めするもう1つの理由は、エキスパートナースが、病気や療養のこと、年齢に応じた日常の過ごし方などをしっかり説明できるからです。さらに、薬剤師、栄養士も、医師、看護師と一緒にチームを組んでいるので、1人の患者さんを中心に多職種でサポートする体制が整っています。

高橋先生

齊藤先生 患者さんの中には「どうして自分がこんな病気になったのか」、「自分が何か良くないことをしたから病気になったのか」などと考え、なかなか病気を受け入れられない方もいらっしゃいます。そのような方には、病気の捉え方や気持ちの持ち方を含めひとつひとつ丁寧にご説明し、病気とうまく向き合うことができるようにサポートすることが、治療の初期でもっとも大切なことだと思っています。

高橋先生 樋口さんは診断がつくまでに2年かかったそうですが、私どもはできるだけ診断がつく期間を短縮できるよう、地域での啓発活動も行っています。患者会などでの講演はもちろん、医師会の先生方や脳神経内科を開業されている先生方にも情報提供し、パーキンソン病の早期から当院にスムーズにご紹介いただけるよう努力しています。

パーキンソン病・運動障害疾患センターの開設

齊藤先生

樋口さん 最近、パーキンソン病・運動障害疾患センターを開設されたそうですね。

齊藤先生 はい、2022年に開設いたしました。当センター設立の目的は、地域でしっかりとパーキンソン病患者さんをサポートしていこうということで、これまで以上の手厚い診療を目指しています。そのため、正確な診断、的確な治療の選択、進行期の患者さんに治療の選択肢をきちんと提示することなどを心がけています。また、医師自身の知識や技能のアップデートはもちろん、医師以外のスタッフの教育にも力を入れ、患者さんを支える体制を一層強化したいと考えています。新しい治療法も積極的に提供したいと考えています。

患者さんへのメッセージ

樋口さん

樋口さん 最後に、われわれパーキンソン病患者が、病気と向き合う際に心がけることについてお話ください。

高橋先生 言い尽くされたことかも知れませんが、毎日を前向きに、できるだけ楽しく過ごすことを大切にしていただきたいと思います。毎日規則正しく生活していただくことも大切です。また、パーキンソン病は運動症状だけではないことも知っていただき、体の動きが悪くない時でも、便秘や立ちくらみ、体の痛みなどがあれば、すぐに主治医や看護師、リハビリテーションのスタッフに伝えていただきたいと思います。

齊藤先生 「明るく楽しく、前向きに」ということが一番大切だと思います。そのためには、「〜すべき」の「べき」という考え方を避けることをお勧めしています。「~すべき」という言葉は時に重たく、自由に行動しにくくなるためです。また、患者さんから「何かやってはいけないことはありますか」と聞かれることがありますが、「やってはいけないことはありません。今まで通り、できることをしていただいて構いません」とお答えしています。頑張りすぎずに「あるがまま」で良いのです、とお話しています。
 私たち医療者の役割は、患者さんがパーキンソン病という望まなかった現実に、明るく前向きに向き合っていただけるよう手助けすることだと考えています。

樋口さん 本日は、東京都立神経病院の取り組みから患者さんの心構えまで、有益なお話がお聞きできました。高橋先生、齊藤先生、大変ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。