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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第17回 浜松医科大学医学部附属病院 脳神経内科/神経・難病センター

●ゲスト

浜松医科大学 特任教授 医学部附属病院脳神経内科診療科長/神経・難病センター センター長
中村 友彦 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 浜松医科大学医学部附属病院脳神経内科では、神経難病を中心に幅広い神経疾患の診断や治療が行われています。また、2021年5月には神経・難病センターが設置され、神経疾患や難病の診療が多様な診療科の協力のもとに進められています。
 今回は、浜松医科大学特任教授で医学部附属病院 脳神経内科診療科長/神経・難病センター センター長の中村友彦先生に、神経・難病センターでの取り組みや、運動症状以外の症状、災害時の対応などについて、シンガーソングライターの樋口了一さんがお聞きしました。

パーキンソン病をはじめ神経の幅広い疾患の治療やケアに豊富な経験

中村先生

樋口さん まず、浜松医科大学医学部附属病院 脳神経内科の特色についてご紹介ください。

中村先生 当科では、神経難病を中心に神経疾患全般について幅広く診療していて、内科疾患に合併する神経の症状を診る機会が多い傾向があります。また、神経難病の慢性期の治療やケアには豊富な経験があります。具体的には、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、アルツハイマー病、脳梗塞、多発性硬化症、重症筋無力症、筋ジストロフィー症、筋萎縮性側索硬化症、脳炎・髄膜炎、免疫介在性神経疾患、といった疾患を診察していますが、特にパーキンソン病の患者さんが多く、年間約200人以上の患者さんを診療しています。
 神経難病は合併症が多いため、脳神経外科、眼科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、リハビリテーション科などの様々な診療科と協力して治療にあたることもあります。

樋口さん 神経・難病センターは、どのような施設なのですか。

中村先生 センターは、神経疾患だけでなく難病全体を診る施設で、(1) 神経難病などの難病の患者さんの治療と難病医療に関する教育と研究を行う、(2) 静岡県で唯一の難病医療診療連携拠点病院として難病患者さんを適切に支援する、(3) オンライン診療の実施と推進を行う、の3つを主な目的にしています。

樋口さん かなり守備範囲が広いのですね。

中村先生 はい。難病だけでなく、一般的な「しびれる、手に力が入らない」などの症状も診ています。

樋口さん かなりよく見られる症状から、原因がはっきりしないことも多い病気まで、「この診断結果だと、どの診療科が主に診るか」を判断されることになりますね。

地震などの災害時の対応について

樋口さん

樋口さん 私は、2016年の熊本地震を経験しましたが、地震の揺れで棚などが倒れ、一時はお薬がどこにあるかわからなくなり大変困りました。このような災害時の対応についてはいかがでしょう。

中村先生 当病院は、災害拠点病院でもあるので、静岡県内の医療機関と協力して災害時の訓練や医療体制を整えています。
 パーキンソン病でお薬が切れると、悪性症候群といって高熱や症状の悪化、汗が多く出る、血圧や脈が不安定になるなどの症状がみられ、時には命にかかわることもあります。ですからお薬を切らさないことは非常に大切です。災害でお薬を失くした時には、お薬手帳があれば処方箋がなくてもお薬を手に入れられるので、災害時には肌身離さず持っていていただきたいですね。脱水なども悪性症候群の誘因となりますので、注意したいところです。

樋口さん 地震そのものも、パーキンソン病の症状などに影響するのでしょうか。

中村先生 はい。阪神・淡路大震災1)や熊本地震2)、イタリアで起きたラクイラ地震3)の影響について報告されています。それによると、阪神・淡路や熊本では、地震後には2〜3割の人で症状が悪化し、悪化した体の動きが元に戻るまでに約2ヵ月かかったことなどが明らかになっています。

樋口さん 地震による精神的なストレスが影響したのでしょうか。

中村先生 そうですね。あとは車中避難や避難所での生活環境の変化によるストレスは大きかったようです。避難所ではトイレの問題で苦労したというお話も聞いています。すなわち、ユニバーサルデザイン(すべての人にやさしいデザイン)であらかじめ指定避難所(主に学校や公民館など)を設計、改築、準備をしておくことが必要と思われます。

日常の診療で心がけていること

中村先生

樋口さん 中村先生が、日ごろのパーキンソン病の診療で心がけていらっしゃることについてお話ください。

中村先生 毎日たくさんの患者さんがお見えになるので、残念ながら、お一人おひとりに十分な時間をかけられないのが実情です。そのような中でも、初診時には診察時間をしっかりと確保して、じっくりと問診したうえで、必ず患者さんに触れるなどのできる限り丁寧な診察を心がけています。今、医療全体が検査主体になっていて、「症状を聞き取った後はすぐに検査」と言うことも少なくありません。しかし私たちは、しっかり診察し、病気が何かを推測し、そのうえで検査計画を立てるということに重点を置いています。神経難病の多くは、詳細な問診と丁寧な神経学的所見によって診断ができるという点を、非常に大事にしています。

パーキンソン病と診断がつくまで時間がかかることも

樋口さん

樋口さん 私の場合、最初に右の肩甲骨あたりに異常を感じたのですが、そこからパーキンソン病と診断されるまでに約2年かかりました。パーキンソン病と診断がつくまで時間がかかることもあるようですが。

中村先生 やはり、最初に診察した医師がパーキンソン病の可能性に気付くかということも関わってくると思います。当センターでも、早い場合は、軽症の段階で他の医療機関から紹介されて来院されますが、遅い場合にはヤールの3度と、かなり症状が進んでから来院されることもあります。例えば、高齢であればあるほど、ふるえや動きが遅くなる症状を「年のせい」と誤解されることが多く、脳神経内科にかかるのが遅くなる傾向にあると思います。

パーキンソン病の運動症状以外の症状とは

中村先生

樋口さん パーキンソン病ではふるえなどの運動症状以外にも、様々な症状が見られます。中村先生は、パーキンソン病の自律神経障害や睡眠障害の研究もなさっているそうですね。

中村先生 運動症状以外の症状を非運動症状と言い、立ちくらみ、睡眠障害、消化管障害、便秘、排尿障害、うつや不安など多彩な症状が見られます。非運動症状への対処は重要で、運動症状よりもこれらの非運動症状の方が患者さんのQOL(生活の質)低下の関連因子とする研究もあるくらいです4)
 私が注目するのは起立性低血圧(心血管系自律神経障害)です。起立性低血圧はパーキンソン病患者さんの約3割で見られ、ふらつきや転倒によって骨折や頭部の外傷が起きやすくなる重要な症状です。
 また、ストレスにも注目していて、今後はストレスと運動症状、ストレスとうつや不安などの精神症状について研究したいと考えています。

パーキンソン病のデバイス補助療法とは

樋口さん パーキンソン病では、飲み薬以外の治療法もあると聞いていますが。

中村先生 パーキンソン病の治療は薬物療法が中心ですが、飲み薬以外の治療法としてデバイス補助療法(DAT)があります。日本で使用可能なDATは脳深部刺激療法(DBS)とレボドパ持続経腸療法です。DATは進行期の患者さんを対象に、年齢や合併症など適応を十分考慮したうえで導入を検討することになります。

パーキンソン病治療の現状と将来

中村先生

樋口さん 最後に、パーキンソン病治療の現状と将来についてお聞かせください。

中村先生 脳神経内科が扱う疾患は、以前は「診断はついても良い治療法がない」ということで、「分からない、治らない、諦めない」と言われ、私たちは、諦めないで治療の道を探ってきましたが、今ではそれも昔話になり、非常に多くの疾患が治せるようになってきています。
 パーキンソン病も様々なお薬によって症状の改善が期待できるようになりましたが、病気の進行を食い止める治療方法はまだ実用化されていません。しかし現在、α(アルファ)-シヌクレインという物質が脳内に広がることと、脳神経の減少が関連していることに注目して、α-シヌクレインの広がりを抑えるための治療方法の研究が世界中で進められています。

樋口さん 本日は大変参考になりました。中村先生ありがとうございました。

参考資料
1) 川村純一郎, ほか.:神戸市立病院紀要 2000; 38: 5-8.
2) Kurisaki R, et al.: J Clin Neurosci. 2019; 61: 130-135.
3) Bonanni L, et al.: Neurol Sci. 2010; 31: 751-756.
4) Santos-García D, et al.: J Neurol Sci. 2013; 332: 136-140.

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。