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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第16回 東京都文京区
順天堂大学医学部附属順天堂医院

●ゲスト

順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 准教授
大山 彦光 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 東京都文京区の順天堂大学医学部附属順天堂医院は、日本のパーキンソン病治療のセンター的役割を担う病院の1つと言えます。また研究面では、将来の診断や治療に役立つ様々な先端的な研究が行われています。
 今回は、順天堂大学大学院医学研究科神経学准教授の大山彦光先生に、シンガーソングライターの樋口了一さんが、パーキンソン病の治療のポイントや患者さんにとって大切なこと、最近のご研究などについてお聞きしました。

50年以上にわたりパーキンソン病の治療と研究を推進

大山先生

樋口さん 順天堂医院と脳神経内科学についてご紹介いただけますか。

大山先生 順天堂医院の創立は江戸時代にさかのぼり、西洋医学の教育機関としては日本で最も歴史があります。その中で順天堂医院の脳神経内科は50年以上の歴史があり、日本で5番目に古い脳神経内科です。脳神経内科の病気全般に対応していますが、特にパーキンソン病に力を入れているのが特徴です。歴代教授は、初代が楢林博太郎先生、第二代が水野美邦先生、そして現在の服部信孝先生が第三代になりますが、いずれの先生もパーキンソン病を専門にされています。そのため、パーキンソン病の治療と研究の両面で長い経験の蓄積があるといえます。このためもあり、現在のパーキンソン病などの神経難病の入院患者さんは年間約1000人で、外来患者さんは年間62000人を超えています。

樋口さん パーキンソン病の治療法は数多いですが、順天堂医院ではどのような治療が行われているのでしょう。

大山先生 パーキンソン病の薬物治療のメインは、レボドパ製剤ですが、このほかにも新しい治療薬が次々に開発されていて、多種類のドパミンアゴニスト製剤や補助薬が使えるようになっています。また、薬物以外の治療法には、デバイス補助療法(Device Aided Therapy、DAT)があります。日本で使用可能なDATには、脳深部刺激療法(DBS)とレボドパ持続経腸療法(LCIG)があり、順天堂医院では適応を十分考慮したうえで治療を選択しています。
 このように、パーキンソン病の治療法は多岐にわたっていますが、治療を行う際には、患者さんの状態とこれらの治療法の特質を考えたうえで、ひとりひとりの患者さんに合わせたベストの治療を行うことが大切です。ただし、ベストの治療は病気の進行の程度、生活環境、社会の中での役割などの変化に伴って変わります。そこで、変化に合わせてきめ細かく治療を調整することが必要になります。順天堂医院では、常にきめ細かな対応を行うよう心がけています。

オンライン診療の目的と意義

樋口さん

樋口さん 新型コロナ感染症の流行もあり、最近はオンライン診療も増えているのではないでしょうか。私自身も1〜2度、熊本の病院と自宅とをオンラインで結んで薬を処方してもらったことがあります。順天堂医院では、新型コロナ感染症の流行以前からオンライン診療をされているそうですね。

大山先生 私たちは、2014年からオンライン診療の有効性や安全性について検討を続けています。なぜならば、患者さんひとりひとりに合わせたきめ細かな調整は、パーキンソン病の専門医でないと難しい面があるからです。
 脳神経内科で治療する病気は非常に幅広いため、脳神経内科医全員がパーキンソン病を専門にしている訳ではありません。もちろん、脳神経科医であればパーキンソン病治療の知識も経験もあるのですが、大きな治療方針の選択については、パーキンソン病を専門とする医師による治療の選択が望ましいと考えています。東京などの大都市圏であれば、パーキンソン病を専門とする医師も少なくないのですが、地域によっては専門医の数が十分でなく、専門医による診察が受けられない患者さんがおられることは、患者会の方々との交流などを通して実感していました。そこで、オンライン診療を推進することになったのです。もちろん、直接診察できるのがより望ましいのですが、高齢や病気の進行によって遠くの病院に行けない患者さんもおられます。そのような患者さんのために、オンライン診療でより多くの患者さんがパーキンソン病専門医の診察をうけやすい状況が作れたら良いと考えています。

研究中の三次元オンライン診療システム

大山先生

大山先生 現在、オンライン診療は患者さんのタブレットやスマートフォンを使って行っていますが、これは平面(二次元)での診察になります。私たちは、立体的に患者さんを診られる三次元オンラインシステムを開発し、実用化に向けた研究を進めています。

樋口さん どのようにして三次元で診察されるのですか。特殊なメガネを使うのでしょうか。

大山先生 はい、ヘッドマウントディスプレイという特殊なメガネを医師も患者さんも装着してお互いが三次元で見えるようにします。そうすることで、患者さんの動作などを正面からも横からも立体的に観察できるようになり、リアルに近い状態で診察するできることで、診療の精度を上げることにつながると考えています。

樋口さん 現在、どこまで研究が進んでいるのでしょう。

大山先生 患者さん100人に参加してもらい、どの程度信頼性が高いかなどを検討しました。将来は、触覚まで伝わるシステムや、ヘッドマウントディスプレイの必要のないホログラムによる診療についても研究を進めたいと考えています。

患者会を通じた活動

樋口さん

樋口さん 順天堂医院の先生方は患者会の方とも積極的に交流されていますね。

大山先生 はい、患者会のいろいろな活動に参加しています。講演会の講師を引き受けることはもちろんですが、講演会の場で医療相談を受けることもしています。また、患者会の皆さんと温泉一泊旅行をして、温泉に入るだけでなくカラオケや卓球をするなど、実際に患者さんと行動を共にするような活動にも参加しています。
 海外の患者会について少しお話しします。欧米の患者さんは病気について積極的に学んで、治療をどうして行くかを医師とディスカッションして決めるというように、主体的に病気を向き合おうとする傾向があります。その集大成が、世界パーキンソン病コングレス(WPC)で、患者さん自身が集会の企画を立てたり、経験を発表したりするほか、「このような研究をしてほしい」と医師に要望するなどの活動を行っています。順天堂医院脳神経科内科は、WPCを手本とした日本パーキンソン病コングレス(JPC)の事務局になっています。2022年7月24日には、東京都港区で第4回JPCの集会が予定されていて、患者さんと医師の間での意見交換も行われます。

患者さんへのメッセージ

大山先生

樋口さん 最後に患者さんにメッセージをお願いします。

大山先生 患者さんにはそれぞれの人生のステージの中でベストな治療を選んでいただきたいです。そのためには、人生の節目節目にパーキンソン病を専門とする医師の診察を受けることが大切で、専門医によるセカンドオピニオンをうける機会を持たれることをお勧めします。その支援のためにも、三次元オンライン診療の実用化を進めたいと考えています。

樋口さん 大変有意義なお話がうかがえました。大山先生ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。