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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第14回 愛知県長久手市
愛知医科大学病院

●ゲスト

愛知医科大学病院 パーキンソン病総合治療センター 特任教授
斎木 英資 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一 さん



 愛知医科大学病院は、特定機能病院として地域医療を支えており、同病院のパーキンソン病総合治療センターでは、パーキンソン病患者さん一人一人に適した治療をお届けするために、複数の診療科の専門医が協力して診療にあたっています。
 今回は、愛知医科大学病院パーキンソン病総合治療センター特任教授の斎木英資先生に、センターの概要や早期診断、デバイス補助療法への取り組みなどについて、シンガーソングライターとして活躍中の樋口了一さんがお聞きしました。

特定機能病院に指定されている愛知医科大学病院

斎木先生

樋口さん 愛知医科大学病院は、愛知県でも有数の規模を誇る病院とうかがっています。最初に、病院全体についてご紹介いただけますか。

斎木先生 当病院は厚生労働省から特定機能病院に指定されており、高度で先進的な医療を提供しています。2019年度の1日の平均外来患者数は約2,600人、入院患者数は約750人でした。救命救急センターは愛知県内で唯一の高度救命救急センターであり、愛知県の医療の要としてその役割を果たしています。また、愛知県難病医療ネットワークの拠点病院でもあります。

脳神経内科と脳神経外科が所属するパーキンソン病総合治療センター

樋口さん

樋口さん パーキンソン病総合治療センターは、どのような施設なのでしょうか。

斎木先生 当大学の理事長、脳神経内科と脳神経外科の両教授が協力してパーキンソン病の診療拠点をつくろうということで開設された組織です。脳神経内科医と脳神経外科医が一つの組織に所属しているのですが、そういった取り組みは全国的にも珍しいのではないでしょうか。センターの名称に「総合」とついている点に意味があり、薬剤以外の治療法も駆使して総合的に治療を行うことを表しています。パーキンソン病の治療は薬剤が中心ですが、薬剤以外の治療法としてデバイス補助療法(DAT)があります。日本で使用可能なDATは脳深部刺激療法(DBS)とL-ドパ持続経腸療法(LCIG)で、患者さんの適応を十分考慮したうえで導入を検討します。脳神経内科医と脳神経外科医が一つの組織に所属することによってDBSに対応するとともに、消化器内科や精神科の協力も確保することでDATを含めた総合的な治療にワンストップで取り組む態勢を整えています。

樋口さん 脳神経内科と脳神経外科が一つの組織に所属しているのは、患者にとっても良いことだと思います。実際の治療でも、両方の診療科の先生が連携されているのですか。

斎木先生 はい。私が責任者となり、脳神経外科医と脳神経内科医が協力して治療を行います。私はパーキンソン病を専門とする脳神経内科医でもあるとともに、DBSの黎明期から取り組んだ長い経験もありますので全体を把握してスムーズな診療を行うことが出来ます。LCIGについても適応となる病態はDBSとほぼ共通しているため、患者さんのライフスタイルや生活状況に応じてより適したDATを選択して治療していきます。

早期診断を実現するための啓発活動

斎木先生

樋口さん 私の場合、体の違和感に気づいてからパーキンソン病と診断されるまでに約2年かかりました。症状が出始めたころは整体に通ったり、整形外科で診てもらったりしていたのですが、そのうちインターネットを通じてパーキンソン病のことを知り、自分の症状と似ていたので、自分から脳神経内科に行きました。パーキンソン病の疑いがある患者さんに脳神経内科を受診してもらうという意味では、「パーキンソン病総合治療センター」という名前は、患者さんが受診するためのわかりやすい目印になると思います。

斎木先生 ありがとうございます。樋口さんのように診断までに2年あるいはそれ以上かかるケースは珍しくありません。多くの方はパーキンソン病という言葉はどこかで耳にしていてもまさか自分に降りかかってくるとは思っておられませんし、可能性があることに気が付いても難病として知られているだけに受け容れがたく、否定したい気持ちが働いてしまいます。他の病気であってほしいという気持ちもあって、整形外科や整体に行かれていたということもよくお聞きします。また、先立ってうつ症状が出ることも多いので前向きになれず、心療内科でうつ病として治療を受けられる方もしばしばいらっしゃいます。

樋口さん パーキンソン病の進み方や症状には個人差があるので、疑いがある患者さんには、やはり脳神経内科やパーキンソン病に特化した施設で診てもらい、専門の医師に判断してもらうことが大切なのですね。

斎木先生 そう思います。少しでも早くパーキンソン病と診断し、適切な治療をお届けできるようにしたいので、一般のクリニックや整形外科、心療内科、接骨院の先生方などを対象にパーキンソン病の早期診断のための啓発活動も行っています。そして、疑いのある患者さんがいらっしゃった場合は、当病院のセンターに紹介いただくようにお願いしています。その他にも、患者さんや一般の方に向けた市民公開講座などを開催しています。

パーキンソン病の症状と確定診断について

樋口さん

樋口さん 私は朝起きた時、足の指がぎゅっと丸まってしまう、いわゆるジストニアの症状が出ることが多いのですが、体はスムーズに動きます。パーキンソン病ではこのようなケースもあるのですか。

斎木先生 一般にパーキンソン病の運動症状では、手足がふるえる、筋肉がかたくなる、体が動かしにくいなどの症状がみられますが、なかには手足のふるえがない方もいらっしゃいます。樋口さんのように、早期からのジストニアが特に体の右左どちらかの手足に強く見られて苦痛を伴うことは、特に若い患者さんでこれまでもよく経験しています。一方、多くの患者さんは筋肉がかたいと動きも鈍くなるのですが、かたさと動きの鈍さが一致していない患者さんもいらっしゃいます。

樋口さん 体を動かせるからといってパーキンソン病ではないとは言いきれないのですね。

斎木先生 そうですね。ドパミンが欠乏する脳の病気はパーキンソン病だけではないので、同じような症状が出現していても異なる病気のことがあります。そういう病気はひとまとめにしてパーキンソン症候群と呼ばれますが、早期は特にパーキンソン病と区別が難しいことが多いです。パーキンソン病かそうでないか、そうでなければ何の病気かといったことはきちんと調べないと診断できないことが多いので、当センターでは多くの場合、入院で検査を承っています。

樋口さん 私は自分でパーキンソン病の可能性が高いと思っていたので、「パーキンソン病かどうかを判断できる検査をしてください」とお願いしました。このような患者の姿勢はどう思われますか。

斎木先生 樋口さんのように、ご自身でパーキンソン病についての知識を深め、自ら検査を依頼する姿勢は非常に重要だと思います。一方で、なかなかハードルが高いことではあるので、先程お話した啓発活動がその助けになればいいなと思います。また、パーキンソン病と診断されてからも、患者さんには治療に対するさまざまな知識を持っていただきたいと思います。

パーキンソン病と上手に付き合っていくために

斎木先生

樋口さん 最後に、パーキンソン病患者さんへのメッセージをお願いします。

斎木先生 治療の主人公は患者さん自身だということをお伝えしたいと思います。パーキンソン病と診断された患者さんは、ショックを受け、悩まれることがほとんどです。無理もないことですが、患者さんにはパーキンソン病であることを一旦受けとめていただき、治療に前向きになって頂きたいと思っています。お薬の服用や体の衰えを防ぐための運動、それに認知機能の低下を防ぐための活動的な生活は、患者さんご自身にしていただかなくてはなりません。そのためには、患者さんご自身が治療の主人公だという気持ちを持ち、前向きに取り組んでいただくことが大切です。そうすれば、より元気な状態でパーキンソン病とともに生きていくことができると考えています。最初は難しいかもしれませんが、お薬の力を借りながら前向きに取り組み、脳の神経回路を動かし、次の治療につなげていく、そういった前向きサイクルを回してほしいと思います。

樋口さん お薬だけに頼るのではなく、前向きサイクルを回し続けることが大切ということですね。本日は、パーキンソン病総合治療センターの概要や早期診断を目指す試みなど、有意義なお話をうかがえました。大変ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。