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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第13回 神奈川県川崎市
聖マリアンナ医科大学病院

●ゲスト

聖マリアンナ医科大学脳神経内科准教授
白石 眞 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 神奈川県川崎市の聖マリアンナ医科大学病院は、全国に86ある特定機能病院の一つで、年間延べ30万人以上の入院患者さんを受け入れ、高度な専門医療が必要な患者さんや、救急の患者さんの治療に取り組んでいます。
 今回は、聖マリアンナ医科大学脳神経内科准教授の白石眞先生に、シンガーソングライターの樋口了一さんが、脳神経内科で治療している病気などについてお聞きしました。

川崎市北部で高度な専門医療を提供

東先生

樋口さん 聖マリアンナ医科大学病院は、川崎市でも有数の規模の病院だそうですが、どんな病気を診ておられるのでしょう。

白石先生 川崎市は人口が150万人以上と、全国でも6番目に人口の多い市です。当病院は、その川崎市の北部の医療を総括している病院で、特定機能病院として、高度な専門医療の提供や救急の患者さんの治療にあたるほか、新しいお薬の開発のための研究なども積極的に行っています。

脳神経内科で治療している病気

樋口さん

樋口さん 聖マリアンナ医科大学病院の脳神経内科では、どのような病気を治療されているのでしょう。

白石先生 脳神経内科で治療している病気はかなり幅広く、脳や脊髄、末梢神経、筋肉など体を動かすことに関わる病気だけでなく、こころの動きや認知に関わる病気までが対象となります。その中で一番患者さんが多いのは、脳卒中やけいれんですが、脳炎やギランバレー症候群といった、進行が速くて1分1秒を争うような病気の治療にも取り組んでいます。また、当病院には救急車で運ばれてくる患者さんが年間約6,500人いらっしゃいますが、そのうちの神経の病気の患者さんを、脳神経外科や救急救命の医師やスタッフとも協力しながら治療しています。

樋口さん 脳神経内科には、頭痛専門外来があるそうですが頭が痛いといっても、原因はいろいろなのではないでしょうか。

白石先生 おっしゃるように、頭痛の原因はさまざまですから、中には急いで治療しないと命にかかわる病気もあります。そこで、ご自分で歩けるようなら、とりあえずはかかりつけの病院やクリニックに行っていただき、ものすごく頭が痛くて動けないといった急を要する症状であれば、当病院のような大きな病院に来ていただくということになります。

樋口さん 頭が割れそうに痛いなどという時には、最初に脳神経内科へ行けばよいのでしょうか。

白石先生 はい、先ほどお話ししましたように、脳神経内科では幅広い脳や神経の病気をカバーしていますから、痛みが非常に強い場合には、病院の脳神経内科で詳しく検査してもらうことが大切です。

初期のパーキンソン病の診断の難しさ

東先生

樋口さん 私自身のことですが、2007年にパソコンのキーボードを打つ時に、右手を構えていることが難しくなり、次に右腕の付け根のあたりから肩甲骨にかけて重く感じるようになってきました。そのうち、歩くときに右足が出しにくくなり、右手も振れなくなってきて体の右側全体がおかしくなってきました。そこで初めて、「これは命令系統の神経の病気ではないか」と気づきました。その時点で脳神経内科の診察も受けましたが、手足のふるえもなかったし、先生もパーキンソン病専門ではなかったためか、ジストニアではないかといわれました。結局、パーキンソン病と診断されるまで約2年かかってしまったのですが、私のように、症状が典型的でないパーキンソン病の診断は難しいのでしょうか。

白石先生 初期のパーキンソン病の診断は、パーキンソン病の専門医にも難しいことがあります。なぜなら、パーキンソン病は典型的症状が出るまでに長くかかることもあるからです。そこで、患者さんが日常生活の本当に困っておられることや神経のどの部分に問題があるかなどを丁寧にみていかないと、診断が難しいという面があります。

樋口さん 本人が症状を自覚するのがパーキンソン病の始まりではなくて、以前から緩やかに始まっているので、そこまでさかのぼって診断するということですね。

白石先生 はい、患者さんもその経過をすべて覚えておられる訳ではありませんから、困っておられることの一つひとつをひも解くような気持ちで確認して行くことが大切です。そのため、初診の患者さんには外来でも30分近く時間を取るようにしています。

樋口さん 後から振り返ると、私の場合には匂いを感じなくなるのが先でした。

白石先生 パーキンソン病では、匂いが感じられなくなる、便秘になる、レム睡眠行動異常(睡眠中に悪夢をみる・大声で叫ぶ)などの非運動症状が現れることが少なくありません。

樋口さん ふるえなどの運動症状の前に、非運動症状が出ることが多いのでしょうか。

白石先生 その通りですね。しかし、患者さんはそれをパーキンソン病の症状とは思わないので、それを聞き逃してしまわないよう、丁寧に症状をお聞きすることが大切です。

パーキンソン病の診断で工夫していること

樋口さん

樋口さん パーキンソン病の診断で工夫されていることはありますか。

白石先生 パーキンソン病の診断には時間をかける必要があります。そこで当病院では、2〜3日の短期検査入院でパーキンソン病を早期に発見して、症状が悪くなる前に治療に結び付けるようにしています。パーキンソン病では運動症状のほかにも、さまざまな症状が出てくるので、診察と問診、症状の重症度や運動機能の検査のほかに、認知機能検査、うつ症状の検査、睡眠の検査も行っています。また、当病院独自の検査として、夜間の運動障害の検査も行います

樋口さん 夜間の運動障害の検査はどのようになさるのですか。

白石先生 この検査では、夜間に腰に100g程度の小さな検査器具を取り付けていただき、就寝中の患者さんの寝返りなどの体の動きを記録します。

樋口さん どんなことが分かるのですか。

白石先生 健康な人ですと一晩に20回前後は大きく寝返りを打つのですが、重症の患者さんですと、寝返りがほとんどないこともあります。

樋口さん 夜は症状が重くなるのですか。

白石先生 夜は、お薬を飲まないので症状が強く出ると考えられます。患者さんが昼間の外来に来られる時には、お薬を飲んでいるし気持ちも張っておられるので、症状が目立たなくなります。そこで、夜間の症状の強さをみることにより、よりよい治療につなげられると考えています。

樋口さん 私も寝起きに腰が痛いことが多いのですが、寝返りの回数が少ないことが関係しているのかも知れないですね。

白石先生 そうですね、夜間はお薬の効き目が切れていることが、朝の動きづらさや体の硬さに関係している可能性はあります。

治療方法の幅が広がるパーキンソン病

東先生

樋口さん 患者さんにパーキンソン病と告知される時に気を付けておられることはありますか。

白石先生 パーキンソン病と聞くと、なかには「寝たきりになる、もう駄目だ」と感じる患者さんもおられます。しかし、的確に治療すれば日常生活に大きな支障がなく長く過ごせる方もいらっしゃいます。また、毎年といってよいほど新しいお薬や治療方法も開発されています。ですから、治療方法の幅が広いことなども含め、患者さんが不安にならず希望が持てるよう説明しています。

樋口さん 最近は、経口薬に加えてデバイス補助療法(Device Aided Therapy、DAT)という選択肢もあるようですが。

白石先生 パーキンソン病は、多くの場合は飲み薬や貼り薬により治療が開始され、病気の進行や症状の変化に合わせて、用量を変えたりお薬を変更したりして、最適な治療を目指していきます。さらに症状が進行した場合には、DATという選択肢があります。日本で使用可能なDATには、脳深部刺激療法(DBS)とL-ドパ持続経腸療法があります。これらの治療はそれぞれの患者さんに合った治療であるかを十分に考慮したうえで行います。

樋口さん 本日はパーキンソン病の診断など興味深いお話がうかがえました。大変ありがとうございました

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。