あきらめない!パーキンソン病治療の応援サイト パーキンソンスマイル.net
樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第12回 東京都新宿区
東京女子医科大学病院

対談写真

●ゲスト

東京女子医科大学 脳神経内科 臨床教授
飯嶋 睦先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 東京女子医科大学病院は、全国でも有数の規模を誇る病院で、同病院の脳神経内科では、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、末梢神経障害など幅広い病気の診断と、それぞれの患者さんに合わせた治療が行われています。
 今回は、東京女子医科大学脳神経内科臨床教授の飯嶋睦先生に、脳神経内科で取り組まれている診断や治療について、「手紙」などの作曲で知られるシンガーソングライターの樋口了一さんがお聞きしました。

国内でも有数の規模を誇る東京女子医科大学病院

飯嶋先生

樋口さん 東京女子医科大学病院は、国内でも有数の大規模病院とうかがっています。最初に、病院全体についてお聞かせください。

飯嶋先生 当病院には、がんセンターなど14のセンターと48の診療科があり、ベッド数は1,335床と、都内でも有数の規模と専門性を有する病院です。現在、900人以上の医師を含め3,000人を超える職員が働いており、2018年度の1日平均外来患者数は約3,800人、入院患者数は約950人でした。

幅広い脳神経の病気に対して専門性の高い診療を実践

樋口さん

樋口さん 診療科の名前を神経内科から脳神経内科に変更なさったのですね。

飯嶋先生 2018年の5月から変わりました。神経内科と聞くと精神科と混同なさる方もいらっしゃいますので。実は、私が医学部を卒業して神経内科の医局に入ると父に伝えたとき、父も精神科に入ると思ったようでしたが、「これからの科だから」といって説明したのを覚えています。

樋口さん 脳神経内科ではどのような病気を診ておられるのでしょうか。

飯嶋先生 脳神経内科というと、特別な神経の病気ばかり診ているというイメージがあるかもしれませんが、入院患者さんの6割は脳卒中の患者さんです。2019年4月からは、脳卒中ケアユニット(SUC)も稼働しています。
 脳卒中のほかには、パーキンソン病やアルツハイマー病、それに多発性硬化症などを診ています。また、手足がしびれる、力が入らないといった末梢神経障害の患者さんも少なくありません。

樋口さん 受診される患者さんも非常に多いそうですね。

飯嶋先生 はい、脳神経内科には、外来だけで1日平均100人以上の患者さんがいらっしゃいます。ですから脳神経内科専門医と脳卒中専門医の数も、全国有数だといわれています。また、私が神経内科の医局に入った当時の教授が、「どんな患者さんも診られるようにしなさい」と指導されていたので、私は色々な神経関連の病気の専門医資格を持っています。脳神経内科では、専門医資格がないと外来で患者さんを診療できないというルールを設けています。

樋口さん 患者さんにとっては、1人の先生が幅広い知識を持っていて診察してくださるという点で安心できますね。私自身は、症状を初めて感じてからパーキンソン病と確定診断されるまでに約2年かかりました。というのも、症状が出てからしばらくは、整形外科や整体に回り道してしまったからです。それを考えると、最初から脳神経内科で、色々な病気の可能性を考えながら診断してもらえるメリットは大きいですね。

東京女子医科大学脳神経内科は臨床を重視

飯嶋先生

樋口さん 飯嶋先生は、臨床教授というお立場ですが。

飯嶋先生 はい、当科は患者さんをしっかり診て、患者さんから学ばせていただき、それを臨床研究につなげようというスタンスです。私自身も医局に入って1年目の時に、日本では報告のなかった病気を、患者さんからの情報をもとに様々な可能性を詳しく調べて原因を突き止めました。これも臨床研究を奨励している成果の1つだと思います。

樋口さん どんな病気だったのですか。

飯嶋先生 「やせて手足がしびれる」といって受診された患者さんで、神経や免疫の病気の可能性を含め色々調べたのですが、なかなか確定診断ができませんでした。そのような中、患者さんが、「サプリメントを飲んでいます」といわれたのを聞いて、そのサプリメントを詳しく分析したところ、害のある無機ゲルマニウムが含まれていたのです。それが不調の原因でした。

樋口さん まるで犯人捜しの刑事さんのようですね。

飯嶋先生 そうですね、脳神経内科の診断ってそれなのです。

パーキンソン病では早期発見と早期治療が大切

樋口さん

樋口さん 診察ではどのようなことを心がけていらっしゃいますか。

飯嶋先生 どの病気でも早期発見と早期治療が大切ですが、特にパーキンソン病などの神経の病気では、治療を早く始めることで長く普通の生活を送れます。
 パーキンソン病の早期発見の目安の1つに、匂いが分からなくなる嗅覚障害(きゅうかくしょうがい)があります。パーキンソン病では、ふるえなどの運動症状が現れる前に、便秘や気分の落ち込みなどの非運動症状が現れることがありますが、嗅覚障害(きゅうかくしょうがい)も非運動症状の1つです。15年ほど前に私はこれに注目して研究を始めました。当時の日本では当科を含めまだ3施設ほどでしか研究は行われていませんでしたが、ねばり強い研究の結果、成果を出すことができました。今では、パーキンソン病の診療ガイドラインにも、嗅覚障害(きゅうかくしょうがい)が診断上重要であると書かれています。

パーキンソン病との付き合い方

飯嶋先生

樋口さん 先生は、パーキンソン病と診断された患者さんにどのようなアドバイスをされていますか。

飯嶋先生 患者さんの中には、「難病」と聞くだけで、この世の終わりのように受け取る方もいらっしゃいます。そこで、パーキンソン病が命にかかわる病気ではないこと、そしてうまく治療していけば普通の生活を長くおくれることを説明し、「一緒に治療していきましょう」と患者さんを勇気づけます。

樋口さん 難病というのは、今のところ根治療法がない病気のことで、命にかかわる病気という意味ではないのですね。

飯嶋先生 その通りです。そして、パーキンソン病には、良い薬がたくさんあるので、1つの薬でうまく治療できなくても、次の薬が使えることを説明しています。

樋口さん 最近は、飲み薬以外の治療法も使えるようになっていますね。

飯嶋先生 はい、適応を十分考慮したうえで、進行期の患者さんには、デバイス補助療法(Device Aided Therapy、DAT)の導入を検討することもあります。日本で使用可能なDATには、脳深部刺激療法とL-ドパ持続経腸療法があります。
 運動療法やリハビリテーションも大切です。いくら薬で症状が良くなっても、筋肉が衰えていれば歩けないし、転倒の原因にもなります。また、運動にかかわる脳の回路も運動療法で維持できます。それから、楽しく治療に取り組むことも大切ですね。

飯嶋先生が毎日の診察で大切にされていること

樋口さん

樋口さん 先生が、毎日の診療で大切にされていることはどんなことでしょう。

飯嶋先生 外来の患者さんとは2ヵ月に1回程度お会いしますが、その間に変化する症状もあります。その変化をできる限り聞いて差し上げたいと思っていて、遠慮せずに話せる雰囲気を作るということを心がけています。また、詳しいことは紙に書いて持って来てくださるようお願いしています。
 脳神経内科の病気の中で、パーキンソン病が一番脳神経内科医の腕のみせどころだと思っています。変わってゆく症状や重症度に合わせて、患者さんと相談しながら治療を組み立て、良い状態を保っていくには繊細な対応が必要ですから。

樋口さん 今日は本当に興味深いお話をたくさんうかがえました。大変ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。