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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第11回 兵庫県姫路市
姫路中央病院、姫路中央病院附属クリニック

●ゲスト

医療法人公仁会理事長、姫路中央病院神経内科、姫路中央病院附属クリニック所長
東 靖人 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 姫路中央病院神経内科と姫路中央病院クリニックでは、急性期から慢性期さらに退院支援まで、一貫して脳神経の病気を診る医療施設として、パーキンソン病、脳梗塞、認知症の治療やリハビリテーション(リハビリ)に取り組んでいます。
 今回は、医療法人公仁会理事長で、姫路中央病院神経内科、姫路中央病院附属クリニック所長を兼ねる東靖人先生に、患者さんの将来を見据えたパーキンソン病の治療や、同病院が進めるケアミックス型病院の意義について、シンガーソングライターの樋口了一さんがお話をうかがいました。

入院、リハビリ、自宅療養準備まで一貫して治療と支援に取り組む

東先生

樋口さん 今回は、パーキンソン病をはじめとし、様々な病気の急性期治療から、リハビリ、退院支援まで、切れ目のない医療を進めることに力を入れておられる、医療法人公仁会理事長の東靖人先生にお話をうかがいます。
 まず、姫路中央病院についてご紹介いただけますか。

東先生 当院は、私の父が1970年4月に開設したのですが、父は脳にかかわる様々な病気を治療したいと考えていました。そこで当院は、脳神経外科が診る病気と、てんかんなどの現在は主に脳神経内科で治療されている病気の専門病院として発足しました。
 当院の特色の1つは、ケアミックス型病院といって、急性期の治療を行う一般病棟、急性期が過ぎてから専門的なリハビリを行う回復期リハビリテーション病棟、そして退院してご自宅に戻られるまでの調整を行う地域包括ケア病棟の3種類の病棟があることです。現在の診療科は、神経内科、脳神経外科、内科、外科など11診療科があり、それぞれ専門性の高い診療を行っていますが、地元では脳神経系と腹部外科の病院として知られています。

姫路中央病院のパーキンソン病治療の特徴

樋口さん

樋口さん リハビリにも力を入れておられるそうですね。

東先生 はい、急性期から回復期まで、さまざまな疾患に対するリハビリに積極的に取り組んでいます。ひとくちにリハビリと言っても、その開始時期や目標、やり方は異なってきます。たとえば、脳卒中では、急性期直後からのリハビリで早く機能を回復させることが大切です。しかし、パーキンソン病はこれとは違い、ご自宅で療養している間に徐々に動きが悪くなってきて、そのまま放置していると体が固まってしまいます。そこで、体が固まる前に入院してリハビリを受けていただき、スムーズな動きを取り戻してもらうことが重要なのです。

樋口さん 姫路中央病院のような、ケアミックス型病院でパーキンソン病を治療する意義についてお話しください。

東先生 長く療養することの多い脳神経内科の病気では、ケアミックス型病院での治療が向いていると思います。パーキンソン病の場合、患ってから何年間かは治療が良く効くハネムーン期があり、その後ウェアリングオフなどの運動合併症が出てきて、高齢になると別の病気での入院や手術の必要も出てくるでしょう。そのような経過をたどるパーキンソン病を、病気にかかって間もない時期からリハビリが必要な時期、さらに療養まで、手術後の支援なども含めて、一貫して1つの病院で診ることが患者さんのためにもよいと思います。そのような対応に向いているのが、ケアミックス型病院だといえます。
 ただ、現在の医療事情では、患者さんを1つの病院で長く診ることが難しくなっています。そこを経営的努力でカバーして、脳神経の病気を一貫して診ていきたいというのが、私の目標です。

パーキンソン病の治療について

東先生

樋口さん 私の場合、パーキンソン病と診断されるまで約2年かかりました。その間に整体、整形外科、歯科(かみ合わせ)まで、いろいろな所を回りましたが、異常が出るのが体の右側ばかりであるのに気づいて、これは脳神経の病気ではないかと思って脳神経内科に行ってようやく診断がつきました。先生のところにはどのような症状で来られる方が多いですか。

東先生 パーキンソン病の初期症状は、年齢によっても違っていて、樋口さんのように若い間に発症した方は、何となく動きがおかしい、痛みがあるなどと言って来られることもありますが、やはり多いのはふるえ(振戦)ですね。高齢の方だと、体が固まってしまったうえ痛みがあるという方や、動きが悪くなって認知症も出てきたという方もおられます。

樋口さん 最近のパーキンソン病の治療方法についてお話しいただけますか。

東先生 患者さんお一人おひとりの事情やご希望によって、お薬を使い分けることになっています。パーキンソン病は、使えるお薬の多い病気ですから、患者さんのご希望をよくお聞きし、まずは運動合併症や副作用をできるだけ避けることを考えて、お薬を選ぶことが大切だと思います。

樋口さん 運動合併症に対する治療にはどのようなものがありますか。

東先生 まず、お薬を飲むタイミングや量の工夫、お薬の変更が考えられます。また、適応を十分考慮したうえで、デバイス補助療法(Device Aided Therapy、DAT)の導入を考えることもあります。日本で使用可能なDATとしては、脳深部刺激療法(DBS)とL-ドパ持続経腸療法があります。

東先生が毎日の診察で大切にされていること

樋口さん

樋口さん 東先生が毎日の診療で大切にされていることをお聞かせください。

東先生 患者さんの将来の状態も見据えて、どのように治療していくかを大切にしています。患者さん、それに介護の方の中には、今が一番良い状態にして欲しいといわれることがあります。しかし、そうすることで運動合併症が出やすくなることもあります。パーキンソン病であっても健康な人とほぼ同等の寿命が望めるようになっている現在、今は多少満足できない点があっても、将来にわたって認知機能があまり落ちず、介護の負担も多くない状態で過ごせることの方が重要です。

樋口さん 今の状態だけではなく、その人の将来まで考えてあげるということですね。
 最後に患者さんへのアドバイスをお願いします。

東先生 患者さんの中には、「私はお薬を飲みたくないので、リハビリだけで治療したい」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、実際に動けなくなってくるとリハビリも難しくなります。お薬とリハビリをうまく使って、良い状態を長く続けることが大切です。そのためには、患者さんにもパーキンソン病の正しい知識を持っていただくことが必要だと思います。情報発信にも今以上に力を入れたいと考えています。

樋口さん パーキンソン病では、お薬、リハビリのどちらか一方ではなく、両方大切なこと、また患者さんにも正しい知識を持ってもらうことの重要性などをうかがいました。大変ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。