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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第10回 京都府京都市
京都府立医科大学附属病院

●ゲスト

京都府立医科大学 神経内科教授
水野 敏樹 先生
※ご所属はインタビュー時のものとなります


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 京都府立医科大学附属病院脳神経内科では、神経変性疾患、神経難病、物忘れ、脳卒中、神経・筋疾患などの様々な専門外来を設け、脳と神経の幅広い病気の診断や治療にあたっています。また、リハビリテーションにも力を入れています。
 今回は、京都府立医科大学神経内科教授の水野敏樹先生に、脳神経内科で取り組まれている病気やパーキンソン病のリハビリテーションの効果について、「手紙」などの作曲で知られる、シンガーソングライターの樋口了一さんがお聞きしました。

約30年前から脳や神経の病気の治療と研究に取り組む

水野先生

樋口さん 今回は、脳や神経がかかわる様々な病気の治療と研究に取り組んでおられる、京都府立医科大学神経内科教授の水野敏樹先生にお話をうかがいます。
 まず、京都府立医科大学附属病院の脳神経内科についてご紹介いただけますか。

水野先生 脳神経内科は今から約30年前の1990年に、京都府立医科大学附属脳・血管系研究センターという、脳の老化と血管の老化の治療と研究のために作られたセンターの中の、患者さんの治療を行う部門として発足しました。それ以来、認知症のような脳の病気、脳卒中のような血管の病気に加えて、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症のような神経の病気の治療を行ってきました。

樋口さん 脳神経内科では、物忘れ専門外来もなさっていますね。物忘れは、認知症だけでなく、パーキンソン病や老化でも起こりますね。

水野先生 そうですね。患者さんが物忘れで来院されても、アルツハイマー病のような典型的な物忘れの病気だけではなく、パーキンソン病とも関連しているレビー小体型認知症や、脳卒中が主な原因の血管性認知症、治療ができる正常圧水頭症など、入り口は同じでも様々な病気があるので、それをきちんと診断するということが、私たちの一番大事な役割だと思っています。

樋口さん 物忘れのようなひとつの症状から、いろいろな病気の可能性を考えてもらえるというのは大変ありがたいですね。

物忘れとパーキンソン病が似ている点

樋口さん

樋口さん 最近、脳トレをやっていますが、やはり年と共に記憶力は落ちてきますね。

水野先生 記憶力のピークは20歳前後ですから、その後は徐々に落ちてゆくのは自然です。また、記憶していてもそれを言葉にしたり書いたりするには運動にかかわる脳の働きも必要です。

樋口さん 記憶をしまっておくことはできても、それをうまく引き出せないということでしょうか。

水野先生 はい、話したり書いたりすることを1分か2分の短時間でやろうとすると、次々と記憶を引き出してこないといけないですね。それがスムーズにできなくなってくるのです。
 要は、スピードが必要な働きが、年を取るにしたがって遅くなるということなのです。パーキンソン病もそれと似たところがあって、ドパミンは動きをスムーズにさせる働きがあるのですが、このドパミンが不足すると速い動きができなくなってきて、第一歩が踏み出しにくくなるなどの色々な症状が出てくるともいえます。

パーキンソン病の初期の症状は?

水野先生

樋口さん 私がパーキンソン病の症状に気付いたのは、今から10年以上前の2007年に右の肩甲骨あたりが重くなって、右手でパソコンのキーボードを打つのがつらくなったことでした。先生の外来ではどのような症状で患者さんが来られるのでしょう。

水野先生 やはり、「手がふるえる」や「歩きにくい」という方が多いですね。「歩きにくい」というのを、足がすくんでしまう、うまく歩けない、歩き方が変わったなどと表現される方もいらっしゃいます。そのほか、体が動かしにくくなったとおっしゃる方も多いですね。

樋口さん そのような症状で外来に来られた方の何割ぐらいが、パーキンソン病と診断されるのでしょう。

水野先生 2割から3割ぐらいです。それ以外の方は、本態性振戦(ほんたいせいしんせん)だったり、整形外科の病気であったりです。脳卒中が潜在的にあって起こる、血管性パーキンソニズムの方もおられます。

リハビリテーションも大切

樋口さん

樋口さん リハビリテーション(リハビリ)にも力を入れておられるそうですね。

水野先生 はい、パーキンソン病で問題となるのは、倒れやすいだとか躓(つまづ)きやすいとかいうことですから、お薬による治療だけでなくリハビリも大切です。

樋口さん 私も転倒には注意しています。また、体を動かすことは、気持ちにも影響しますね。

水野先生 はい、リハビリを続けるうちに「しっかり歩けるようになった」と、気持ちが前向きになられることを私たちも感じます。

樋口さん パーキンソン病では、前向きな気持ちを持つことが大切だといいますね。また、体を動かさないと、筋肉が落ちて動きが悪くなると思います。それを、パーキンソン病が進んだせいだと誤解してしまいませんか。

水野先生 誤解する方はおられます。特に腰回りの筋肉やインナーマッスル*は意識してトレーニングしないとすぐ落ちてしまいます。パーキンソン病の方は、どうしても外出する機会が減りますから、筋肉が落ちやすくなります。そこで、「リハビリできっとよいことがありますよ」と励まして、積極的に取り組まれるよう支援しています。
 *インナーマッスル:身体の深いところに位置する筋肉(深層筋)。

水野先生が毎日の診察で大切にされていること

水野先生

樋口さん 先生が毎日の診察で心がけておられることについてお話しください。

水野先生 まず、診断にあたっては患者さんのお話をよく聞くということです。最近は、心筋シンチグラフィなど診断のための検査も充実してきていますが、やはりお話を聞くことが診断のいちばんの参考になりますし、患者さんが何に困っておられるかを知ることもできます。
 パーキンソン病の診断の際は、多くの患者さんは難病と聞くとかなり落ち込まれるので、「ちゃんと治療したら日常生活は普通にできますよ」と、きちんと伝えることが大切だと思っています。

樋口さん 患者さんがより良い診察を受けられるように、何かヒントのようなものがあれば教えてください。

水野先生 病院でたくさんの患者さんが順番待ちをしているのを見ると、自分が時間を取ってしまうのを遠慮して、聞きたいことを聞けずにお帰りになる方もおられます。ですから、気になることをメモにして持ってきていただくとよいと思います。また、パーキンソン病症状日誌などを利用して、1日の症状の変化を記録していただけると助かります。それによって、薬の効き目が切れた時間帯や何に困っておられるかが分かり、よりよい治療ができるようになりますから。

樋口さん 最後に患者さんにメッセージをお願いします。

水野先生 そうですね、人間、どこか悪いところは1ヵ所ぐらいあるものです。悪いところはきちんと治療しないといけないですが、一方、病気だからといってこれまでできていたことが全部できなくなるわけではありません。パーキンソン病でも働いている方、日常生活をしっかり送っておられる方がいらっしゃいます。私たちはできるだけ普通の生活ができるようサポートしたいと考えています。

樋口さん 今回は、パーキンソン病の症状やリハビリテーションについてお話しいただきました。大変参考になりました。ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。