樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第6回 東京都世田谷区
公立学校共済組合関東中央病院

●ゲスト

公立学校共済組合関東中央病院 神経内科統括部長
織茂 智之 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 東京都世田谷区にある関東中央病院は、東京都から「地域医療支援病院」の承認を受けており、「心あたたかく、日々新たに」という基本理念のもと、地域住民の健康を支えています。 今回は同病院の神経内科統括部長である織茂智之先生に、パーキンソン病と向き合いながら音楽活動を継続されているシンガーソングライターの樋口了一さんが、病院の特徴をはじめ、神経内科の診療体制、織茂先生のご研究などについてお聞きしました。

1日1,000人以上の患者さんが来院

織茂先生

樋口さん まず関東中央病院についてご紹介いただけますか。

織茂先生 当院は、1953年に公立学校共済組合の職域病院として設立されました。現在の病床数は403床で、全国8ヵ所ある公立学校共済組合の直営病院のなかでは、最大規模の病院です。2018年度の延べ入院患者数は106,844人、1日平均外来患者数は1,045人と、非常に多くの方々がおいでになります。

樋口さん 公立学校共済組合ということは、学校の先生方以外は診てもらえないのでしょうか。

織茂先生 当初は確かに、公立の小学校、中学校、高校の職員のみが対象でしたが、昭和33年からはどなたでも診るようになっています。

神経内科ではパーキンソン病、認知症、脳梗塞などを治療

樋口さん

樋口さん 関東中央病院の神経内科では、どのような治療をされているのですか。

織茂先生 神経内科の病床数は35床で、年間入院患者数は約500人〜600人です。パーキンソン病などの神経変性疾患の患者さんが多く、全体の4割近くになります。また急性期脳梗塞患者も多数入院します。外来には月に80〜100人の新規の患者さんがお見えになります。地域医療支援病院の神経内科ということもあって、救急の患者さん、地域の診療所などから紹介された患者さんが8割以上となっています。

樋口さん 神経内科ではどのような体制で患者さんを診ているのでしょうか。

織茂先生 常勤医師4名、シニアレジデント2名、非常勤医師3名で外来・入院患者さんを診ています。神経内科では、脳、末梢神経、筋肉などで起こる内科的疾患の診療を行っており、パーキンソン病、認知症、急性期脳梗塞などの治療を得意としています。

MIBG心筋シンチグラフィをパーキンソン病の診断に初めて使う

織茂先生

樋口さん 織茂先生のMIBG心筋シンチグラフィに関する研究が、世界的に高く評価されているとうかがいました。研究内容についてご紹介いただけますか。

織茂先生 MIBG心筋シンチグラフィは、心臓交感神経の機能をみるための検査として開発されたもので、MIBGという物質を注射して心臓交感神経の状態を画像で調べます。私は今から25年前の1994年に当院に赴任してきました。パーキンソン病は専門外でしたが、外来で手の指が腫れている患者さんに会い、直感で自律神経系に問題があると思いました。その1年後の1995年に他の医師から循環器の分野では、MIBG心筋シンチグラフィという心臓交感神経の状態を診る核医学検査があることを聞きました。そこで、リハビリテーションのために入院していたパーキンソン病の患者さんにお願いして、MIBG心筋シンチグラフィをとってみました。その画像を見てMIBGが心筋にほとんど取り込まれていないことに驚きました。

樋口さん それは、交感神経が減ってしまっているということになるのですか。

織茂先生 そうですね。その後、複数の患者さんにMIBG心筋シンチグラフィを試してみて、パーキンソン病患者さんでは、MIBGの心筋への取り込みが低下していることがわかりました。さらに研究を重ねて、パーキンソン病では心臓交感神経が脱落しているのに対し、他の病気では脱落していないことを突きとめました。それによって、パーキンソン病の診断に役立つ検査として、MIBG心筋シンチグラフィが広く用いられるようになり、2015年にはパーキンソン病の新しい診断基準に取り入れられました。

樋口さん MIBGの心筋への取り込みの低下がパーキンソン病の患者さんで共通していることを、世界に先駆けて発見されたのですね。そのことは特にどのようなことに役立つのでしょうか。

織茂先生 パーキンソン病の鑑別診断に利用できます。特に多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったパーキンソン病と症状が似ている病気との鑑別に役立ちます。なお、心臓交感神経が脱落していることを不安に感じる患者さんも見受けられますが、心臓の機能は基本的には保たれており、普通の生活をしていれば問題はありません。

パーキンソン病の症状は多彩

樋口さん

樋口さん 私は体に異変を感じてから、MIBG心筋シンチグラフィでパーキンソン病と診断されるまでに約2年かかりました。その間、整形外科や整体、かみ合わせの矯正などにも通いました。パーキンソン病と診断されるまでには時間がかかることが多いようですね。織茂先生のところには他の医療機関からの紹介患者さんが多いとのことですが、どのような状態のパーキンソン病患者さんが来院されるのでしょうか。

織茂先生 パーキンソン病は動作が遅くなる、手足がふるえる(振戦)などの運動症状を引き起こす疾患として知られていますが、若い患者さんでは、肩の痛みを訴えて来られた方がいました。パーキンソン病と診断するためには運動症状があることが必須ですが、眠っているときに突然大声で叫んだり、手足を激しく動かすレム睡眠行動障害や、嗅覚の低下、便秘などの非運動症状も重要です。

樋口さん 自分ではわかりませんが、私も大きな声で寝言を言うそうです。

織茂先生 私たちは少しでもパーキンソン病が疑われる場合は、非運動症状の有無についても確認しています。レム睡眠行動障害のように患者さん自身は気づかない症状もあるため、一般の人にも広くパーキンソン病の症状を知っていただく必要があると感じています。

パーキンソン病患者さんの往診も

織茂先生

樋口さん 織茂先生は往診もなさっているそうですね。

織茂先生 8年程前から地域のパーキンソン病患者さんを往診しています。ホーン・ヤールの重症度分類のIV度くらいになると、患者さんがひとりで通院するのは難しくなりますが、患者さんを最後まで診たいという思いから往診を始めました。私が医師として目指しているのは、「科学者の目を持ち、赤ひげの心で診療にあたること」です。特に脳神経内科で診るパーキンソン病のような慢性疾患は、現時点では完治することはないため、赤ひげの心を持って患者さんの気持ちに寄り添う必要があると思います。そうした思いもあって往診を続けています。

樋口さん 科学者の目と赤ひげの心のバランスが大切なのでしょうね。織茂先生、本日はありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。