樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第3回 大阪府吹田市
大阪大学医学部附属病院
神経内科・脳卒中科

●ゲスト

大阪大学医学部附属病院 神経内科・脳卒中科 診療科長
大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学 教授
望月秀樹先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口了一さん



大阪大学医学部附属病院の神経内科・脳卒中内科は、パーキンソン病だけでなく、脳卒中、認知症、重症筋無力症、てんかん、片頭痛など幅広い脳神経内科の病気の、「大阪府周辺の脳神経疾患治療の最後の砦」として、年間2万人以上の患者さんが受診する基幹病院です。
今回は、脳神経内科が扱う病気、パーキンソン病の治療、病院で行われているパス入院などについて、同病院神経内科・脳卒中科診療科長で神経内科学教授の望月秀樹先生から、シンガーソングライターの樋口了一さんがお話をうかがいました。

大阪大学医学部附属病院 神経内科・脳卒中科について

望月先生

樋口さん まず、大阪大学医学部附属病院の神経内科・脳卒中科についてご紹介いただけますか。

望月先生 神経内科・脳卒中科では、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病などの変性疾患や認知症、多発性硬化症や重症筋無力症などの自己免疫疾患、手足のしびれがみられる末梢神経疾患、そして脳卒中、てんかん、片頭痛まで、神経疾患すべての診断や治療を行っています。
 当科を受診される外来の患者さんは、年間約2万1千人にもなります。また、20以上ある関連病院から紹介された患者さんを診察することはもちろん、当科で診察した患者さんを地元の病院やクリニックに紹介する逆紹介も行っています。
 大学医学部の附属病院ですから、大学院生の教育や神経内科の医師の養成、それに研究にもあたっています。研究面では、神経変性疾患基礎研究グループ、自己免疫疾患グループなど6つのグループに分かれて、基礎研究の成果を患者さんの治療に生かす取り組みをしています。
 このように、脳と全身の神経が関係するどんな病気にも対応できる態勢を整えていて、救急搬送された脳梗塞の患者さんの血栓をカテーテルで取り除く、血管内治療まで行っています。

パーキンソン病は脳神経内科の病気

樋口さん

樋口さん 最近、診療科の名前を神経内科から脳神経内科に改める病院が多いようですね。

望月先生 そうですね。ただ、当科は神経内科・脳卒中科となっていて、神経の病気と脳の病気のどちらも診る科という意味は伝わると思います。

樋口さん 脳神経内科と聞くとどんな病気を診る科なのか、イメージしにくい気がします。

望月先生 もともと神経内科は、精神神経科から独立した科なのです。本当は、神経科とした方が分かりやすいのですが、病院によっては、精神疾患を診る科を精神神経科と標榜し神経科という名前が入っているので、患者さんの混乱を避けるためもあって、神経内科となったという経緯があります。日本の神経内科にあたる英語は、ニューロロジーですが、これを率直に日本語にすれば神経科となります。

樋口さん 日本だけ精神と神経が同じ意味のようになってしまったのですね。
 私の場合、最初に肩甲骨周辺に異変を感じて最初に行ったのはカイロプラクティックで、次に行ったのが整形外科でした。当時、脳神経内科という診療科は思い浮かばなかったのですが、最初から脳神経内科に行っていれば早道だったのですね。結局回り道をして、診断がつくまでに約2年かかりました。

望月先生 脳神経内科の医師が診察していれば、もう少し早く診断がついたでしょうね。例えば、「ふるえ」があれば、診察した医師はパーキンソン病ではないかと気づくと思いますが、患者さんが「ふるえ」の症状をうまく表現できなくて、「しびれる」「だるい」「つらい」などと表現されることも多いのです。これを聞いた専門でない医師は言葉通りに受け取って、色々検査してみて異常がなければ、精神的な問題だとしてうつ病だと診断することもあります。
 これとは逆に、整形外科の病気であるのにパーキンソン病と診断されてレボドパを飲んでいる患者さんが来られたこともありました。その患者さんは膝の関節症だったので、症状は膝だけだったのです。パーキンソン病では全身に症状が出ますから、検査をしなくてもパーキンソン病ではないと分かります。

樋口さん この膝の病気でレボドパを飲んでいた患者さんは、最初に脳神経内科に行って、パーキンソン病以外の病気だと診断してもらっていれば、次に整形外科に行ったでしょうね。お聞きしていて、脳神経内科の存在をもっと知ってもらうべきだと思いました。

望月先生 広く知っていただく努力も大切ですが、もう一つ、脳神経内科の幅広い病気の全部を診ることができる医師の養成も重要です。先ほどもお話ししたように、脳神経内科では非常に幅広い病気を診察しています。現代の医学は、臓器別や病気別に深く専門を追及するという流れですが、脳神経内科に関しては、幅広い病気をそれぞれの専門医が1つずつ診ていたのでは、医師の数が足りなくなります。そこで、脳と神経の病気を全部診ることのできる医師の養成が必要になります。私たちも、この点に力を入れた教育を行っています。

パーキンソン病の治療方法を患者さんが選べる時代になった

望月先生

樋口さん 最近、パーキンソン病の治療方法が増えてきましたが、治療の現状ということでお話しいただけますか。

望月先生 お薬の種類が増えて、患者さんのご希望に沿った治療方法を選べる時代になってきています。例えば、少量のお薬で副作用を最小限にしたい、なるべく人に病気を知られないようにしたいなどのご希望に対応できるようになっています。
 ただ、進行期になると、お薬を1日に何度も飲まなければならなくなる、副作用のジスキネジアが出る、急に体が動かなくなる、など患者さんのQOLを下げる症状が出てきます。特に、進行期の患者さんが一番困るのは、外出先で急に動けなくなることです。現在は、こうした患者さんへの治療に、飲み薬、貼り薬、皮下注射などのお薬の追加、増量、変更を検討します。また、適応を十分考慮したうえで、デバイス装着療法(Device Aided Therapy (DAT):本邦ではDBS、L-ドパ持続経腸療法)の導入を検討する場合もあります。

パーキンソン病のパス入院とは?

樋口さん

樋口さん 神経内科・脳卒中科では、パーキンソン病のパス入院をなさっているということですが、これはどのようなものなのですか。

望月先生 パス入院は、パーキンソン病で必要な検査や説明を1週間入院していただいて、まとめて行ってしまおうというものです。

樋口さん どのようなメリットがあるのでしょう。

望月先生 パーキンソン病や認知症の検査は種類も多く時間もかかるので、一通りの検査を済ませるために何度も外来に来ていただくことになり、患者さんの負担が大きくなります。また、外来は混みあっているため、残念ながら十分な説明の時間を取ることが難しいことがあります。パス入院によって、これらのデメリットを解消できます。このほか、平日の昼間は、仕事で来られないご家族の方に夜に来院していただき、自宅での患者さんの様子をお聞きしたり、病気の説明をしたりすることもできますし、人間ドックのように定期的に全ての検査を受けてもらえば、病気の進行状況を把握しやすくなるというメリットもあります。

樋口さん 脳神経内科の病気は非常に幅広いこと、パーキンソン病治療の現状、パス入院などについてお聞かせいただき大変勉強になりました。望月先生、ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。