樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第2回 栃木県下都賀郡壬生町
獨協医科大学病院

●ゲスト

獨協医科大学病院長、獨協医科大学脳神経内科教授
平田幸一先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口了一さん



栃木県壬生町の獨協医科大学病院は、年間約60万人の患者さんが、検査や治療のために来院される日本有数の規模の病院です。脳神経内科では、大学病院と2つの医療センター(埼玉医療センター、日光医療センター)を合わせて約60人の医師が、パーキンソン病、脳卒中、筋ジストロフィーなどの幅広い病気の治療にあたっています。同病院の役割について、獨協医科大学脳神経内科教授であり、また病院長としてこの巨大病院を率いておられる平田幸一先生に、シンガーソングライターの樋口了一さんがお聞きしました。

獨協大学病院について

平田先生

樋口さん 獨協医科大学病院は、日本でも有数の規模の病院だそうですね。

平田先生 はい、獨協医科大学病院(以下本院)のベッド数は1,195床と、全国で4番目に大きな病院です。また、外来においでになる患者さんの数も多く、2017年には約3万8,000人の新規の患者さんを迎えました。再診の患者さんを含めると、受診される患者さんは年間約60万人にもなります。これは全国で7番目だそうです。こちらの本院以外にも、920床の埼玉医療センター、199床の日光医療センターがあるので、合わせると2,300床を超える規模になります。
 本院には、内科系と外科系合わせて31の診療科と、ハイリスクの患者さんを診療科を越えて一貫して治療する、総合産期母子医療センターなどの18のセンターがあります。

樋口さん すると本院だけでも、かなり広い地域と幅広い病気をカバーしていることになりますね。

平田先生 そうですね、獨協医科大学病院は北関東自動車道の「壬生IC」から車で3分、東武線の「おもちゃのまち」駅から徒歩10分と交通アクセスもよく、栃木、茨城、群馬の北関東3県だけでなく、埼玉県、福島県からも患者さんがみえます。
 特定機能病院として、肺移植、骨髄移植、生体肝移植などの高度専門医療、がん診療、救急・急性期医療などを含む幅広い病気に対応できる態勢を整えており、医科大学病院として大学院生の教育にもあたっています。

幅広い病気を治療する脳神経内科

樋口さん

樋口さん 今、全国の大学や病院で、診療科の名前を神経内科から脳神経内科に変える動きがありますね。獨協医科大学でも、脳神経内科に変えられたのですか。それから、これは私の一番お聞きしたいことなのですが、脳神経内科ではどのような病気を治療されているのですか。

平田先生 当院でも、2018年の10月1日から脳神経内科に変えました。 脳神経内科は、脳、末梢神経、それに筋肉の病気も治療する診療科です。当院でも、パーキンソン病を始め、脳卒中、脳炎、認知症、頭痛、重症筋無力症など幅広い病気に対応しています。詳しくは、当院の脳神経内科のホームページ(http://www.dokkyomed.ac.jp/hosp-m/info/69/291.html)をご覧いただくとよいと思います。
 本院の脳神経内科病棟には、毎月100人以上の患者さんが新しく入院され、約30人の医師が診察にあたります。また、2つある医療センターにも約15名の医師が勤務しています。

樋口さん 症状が出始めたころ、私は同じ脳神経内科でも先生によって得意分野があるということを知りませんでした。それで、最初に行った病院の脳神経内科の先生は、脳卒中が専門の方でした。

平田先生 当院もそうですが、最近の病院のホームページには、医師ごとや診療科ごとに得意分野が明記されていることが多いので、それを参考になさるとよいでしょう。

樋口さん 私もそうでしたが、体の動きに異常を感じると、最初に整形外科に行ってしまいがちだと思いますが。

平田先生 整形外科での治療は、交通外傷、骨折、側弯症、そして腰痛などで、いずれも痛みがキーワードですから、「動けない」というのは、もともと整形外科の病気ではないということになります。

パーキンソン病の診断と治療は?

平田先生

樋口さん パーキンソン病の診断について教えてください。最近、ダットスキャンやMIBG心筋シンチグラフィなどの検査についての話題を聞くことが増えたように思うのですが、実際にこのような検査結果を参考にして診断されるのですか。

平田先生 確かに、ダットスキャンや心筋シンチグラフィが使えるようになって、脳神経内科の教科書の内容も変わりました。10年ほど前の教科書には、パーキンソン病は血液、MRI、CTのどの検査でも異常が見られないと書かれていました。今はダットスキャンのような検査が行えるようになって、診断の精度はずいぶんとあがりました。それでも初期のパーキンソン病の診断は難しいことがあります。
 昔の名医と言われるような方は、患者さんが診察室に入って来られる様子を見ただけで診断できたそうです。

樋口さん それは一種の才能なのでしょうか。平田先生も一目見ただけで診断がつくことがおありですか。

平田先生 整形外科などのクリニックや病院をいくつも回って来られた患者さんが、ドアを開けて診察室に入って来られた瞬間に、パーキンソン病と分かったことがあります。この患者さんもそうでしたが、よく間違われるのはうつ病です。うつ病でも動きが遅くなりますから、振戦がないパーキンソン病の方は、うつ病だと診断されて抗うつ薬を飲まれていることがあります。この方の場合は、パーキンソン病に特徴的な無動の症状から分かりました。表情や動きの遅さ、それに姿勢などから総合評価が一瞬でできたのですね。
 ただ、まれですがダットスキャンなどの検査結果は異常なのに、パーキンソン病の症状が出ていない方がいらっしゃいます。

樋口さん 検査結果が異常でも症状がないということは、その後症状が出てくるということでしょうか。それに、先天的に異常ということはないのでしょうか。

平田先生 症状が後から出てくる可能性はあります。また、先天的に異常を示すことはないでしょうね。

樋口さん L-ドパが効く人は、パーキンソン病と診断できると聞いたことがあるのですが。

平田先生 はい、7〜8割の患者さんはL-ドパがよく効くのですが、中にはあまり効かない人もいらっしゃいます。

樋口さん そうですか。私もL-ドパを飲み始めて1年ほどは効いている実感がなかったです。

平田先生 樋口さんのように、振戦が出ない人に多いという印象があります。その一方、振戦の出ている人には劇的に効くことがあります。かなり以前、家族に担架で運ばれて来た人が、L-ドパを飲んだ翌日に歩いておられたことがありました。

将来のパーキンソン病の治療は?

樋口さん

樋口さん 現在は、今までとは一線を画するような新しい治療法が研究されているそうですが、将来の治療はどうなるのでしょう。

平田先生 2018年11月から、京都大学でiPS細胞移植の臨床試験が始まりましたが、実用化は相当先だと思います。また、iPSのような先端技術ではありませんが、お薬が効かないウェアリングオフの時間を短くするための工夫もされています。ただ、副作用などの課題もあると思います。またこれまで、進行期にはL-ドパを何度も飲むことなどで対応してきましたが、最近、小腸から直接L-ドパを吸収するようにする、L-ドパ持続経腸療法が日本でも使えるようになり、進行期の治療方法が一つ増えました。

樋口さん 最後に、これから脳神経内科に行こうとしている患者さんにメッセージをお願いします。

平田先生 私たちから患者さんに「こうしてほしい」とお願いすることはないのですが、先ほども触れたように、いろいろな病気が脳神経内科に関係しているということは、覚えておいていただきたいですね。

樋口さん 今回の先生のお話は大変参考になりました。ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。