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樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第15回 愛知県豊明市
藤田医科大学病院

●ゲスト

藤田医科大学病院 脳神経内科 教授
渡辺 宏久 先生


●ホスト

シンガーソングライター
樋口 了一さん



 藤田医科大学病院は、病床数日本一を誇る特定機能病院で、同病院の脳神経内科では、パーキンソン病、脳卒中、髄膜脳炎、頭痛、てんかんなどの幅広い病気の診断と、それぞれの患者さんに合わせた治療が行われています。
 今回は、藤田医科大学病院脳神経内科教授の渡辺宏久先生に、同病院のパーキンソン病センターの取り組みや、治療を行うために大切なことについて、シンガーソングライターの樋口了一さんがお聞きしました。

病床数日本一の藤田医科大学病院

東先生

樋口さん 藤田医科大学病院は全国でも最大規模の病院とうかがっていますが、どのような特色があるのでしょうか。

渡辺先生 当病院には25の診療科があり、幅広い病気に対応しているとともに、厚生労働省からは特定機能病院に指定されています。ベッド数は1,435床と日本では最も多く、24時間365日対応の救急外来も設けています。また、最近では新型コロナウイルス感染症の患者さんを積極的に受け入れており、「社会的な使命感を持って対応しよう」というマインドを持った病院です。

脳神経内科の治療実績とパーキンソン病センターでの取り組み

樋口さん

樋口さん 藤田医科大学病院の脳神経内科についてご紹介いただけますか。

渡辺先生 脳神経内科ではさまざまな病気の診断や治療を行っており、2019年度の年間入院患者数は1,000人を超えています。病気の種類としては、脳卒中をはじめとした脳神経系の病気が多いですね。また、チーム医療を積極的に行っていることも当科の特徴の1つです。例えば脳卒中の治療では、脳卒中科、脳神経外科、救急総合内科、脳神経内科の4科がチーム医療を行い、最新で最善の医療を提供できるようにしています。

樋口さん 一つの病気に対し、多角的な視点から適切な治療方法を選んで治療にあたられているということですね。パーキンソン病でも同じような取り組みがされているのですか。

渡辺先生 はい、当病院は2020年11月にパーキンソン病センターを開設しました。パーキンソン病の症状は患者さんによって異なるため、さまざまな診療科と協力して適切な治療を提供したいと思っていますが、入口をセンターに絞ることで、その後の診療がスムーズになると考えています。また、地域の病院とも連携し、地域と一体化した大きな病院群のセンターという立場で、その役割を果たしたいという思いもあります。さらに、センターという看板があると、新しい治療法を開発するために国内外の研究施設との連携も進めやすくなるという利点もあります。

樋口さん 最近では、パーキンソン病に対して飲み薬以外の治療を行うこともあるそうですね。

渡辺先生 はい、パーキンソン病の治療は飲み薬が中心ですが、飲み薬以外の治療法としてデバイス補助療法(DAT)があります。日本で使用可能なDATには脳深部刺激療法(DBS)とL-ドパ持続経腸療法で、患者さんの適応を十分考慮したうえで導入を検討します。

樋口さん 使える治療方法の幅が広がる素晴らしいことだと思いますが、その一方で自分に最適な治療法は何か?という疑問が出てくることもありそうですね。

渡辺先生 おっしゃるとおりです。どの診療科を受診すればよいか、どの治療法を選べばよいか、リハビリテーションはどこで受けられるかなどのお悩みに、当センターは総合的に対応することを目指しています。

樋口さん 私は診断までに約2年かかりましたが、パーキンソン病センターで診ていただくことが、診断への近道と言えるかもしれませんね。

渡辺先生 ありがとうございます。当センターを受診された方のなかにはパーキンソン病ではなかった方もいらっしゃいますが、その場合は症状の原因を探り、どのように対応すべきかをお伝えすることも、脳神経内科の役割だと考えています。

適切な治療を行うために大切なこと

東先生

樋口さん パーキンソン病の治療では、個々の患者さんに合った治療をどこまで細かくしていただけるかによって、その後が変わると思うのですが、いかがでしょう。

渡辺先生 おっしゃるとおりだと思います。医師は各治療方法のメリットとデメリットを理解しておくことが大切ですし、パーキンソン病の症状は、患者さんが100人おられたら100通りあると思いますので、目の前の患者さんにどのような症状が出ているのかを把握しておくことはとても重要です。それから、患者さんが望まれていることや希望されているゴールについて、意識をすり合わせるプロセスもとても大切です。私たちもできるだけ患者さんの希望に近づけるように努力しますが、時には患者さんにも歩み寄っていただくようお願いすることもあります。

樋口さん 海外の研究施設とも連携を進められているそうですが、海外との情報交換はどのように行っておられるのでしょう。

渡辺先生 はい、当センターはさまざまな先生方のご協力もあり、海外トップレベルの先生方とコミュニケーションしやすい状況にあります。今後はインターネットなどを通じて、国際的に行われている治療、症例検討や、私たちの行っている取り組みなどについて意見交換を定期的に行う予定です。

毎日の診察で大切にしていること

樋口さん

樋口さん 先生は、毎日の診察でどのようなことを大切にされていますか。

渡辺先生 パーキンソン病は、現時点では残念ながら病気が進むのを完全に止めることは難しい状況にありますが、将来はそれも可能になるかもしれません。少なくとも、2年後、5年後にお届けできる治療は今よりも良いものであると信じています。そのためには何をすればよいのか、リサーチマインドや希望を持って取り組むことを大切にしています。また、日本には昔から「手当て」という言葉がありますが、手を当てるだけでも痛みが和らぐと言われています。パーキンソン病の診察では患者さんの体に触れますので、私はそういったコミュニケーションも大切にしています。

樋口さん 相手に精神的に寄り添うことの大切さは、音楽をやっている身でも実感しています。最後に、パーキンソン病患者さんへのメッセージをお願いできますか。

渡辺先生 実は、パーキンソン病と上手に付き合っていくための工夫などを患者さんから教わることも多いです。それを他の患者さんにお伝えすることがあるのですが、同じ病気と向き合っている方々の工夫によって乗り越えられてきた重みがあることを感じます。パーキンソン病の治療では、お薬だけではなく運動も大切ですし、何よりも治療に対する気持ちの持ち方が肝心です。そのため、患者さんの精神的なサポートも私たちの重要な役割だと考えています。私たちも、パーキンソン病患者さんの抱えている負担が少しでも小さくなるよう、一緒に頑張って前へ進みたいと思います。また、将来は患者さんが負担を感じることのない時代が来るよう、研究も進めたいと考えています。

樋口さん ともにこの病気と歩んでくださる先生方の言葉が、患者さんを一番勇気づけられると思います。本日はパーキンソン病センターの取り組みや適切な治療を行うために大切なことについてお話いただき、大変参考になりました。ありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。