樋口了一

脳神経内科
歴訪シリーズ

第1回 千葉県浦安市
順天堂大学医学部附属浦安病院

対談写真

●ゲスト

順天堂大学医学部附属浦安病院 脳神経内科 教授 卜部貴夫先生


●ホスト

シンガーソングライター 樋口了一さん



有名な大規模テーマパークの所在地でもある千葉県浦安市に、順天堂大学医学部附属浦安病院はあります。千葉県全域や都心からの交通アクセスもよいため、広い地域の医療を支える基幹病院としての役割のほか、大学病院として高度な医療の実践や医療従事者の育成など多くの役割を担っています。同病院の特徴的な役割について、脳神経内科教授であり、脳神経・脳卒中センター長と患者支援センター長も兼務される卜部貴夫先生に、ご自身もパーキンソン病と長く付き合っておられる、シンガーソングライターの樋口了一さんがお聞きしました。

順天堂大学医学部附属浦安病院について

卜部先生

樋口さん 順天堂大学医学部附属浦安病院(浦安病院)脳神経内科教授でいらっしゃいます、卜部貴夫先生におこしいただきました。卜部先生よろしくお願いいたします。
 さて、浦安病院は千葉県にありますが、東京都心からも近いですね。

卜部先生 病院のある浦安市の人口は約17万人ですが、市内には有名な大規模テーマパークがあり、そこに1日約10万人が訪れるので、合計27万人規模の大都市に相当するということになります。また、都心からの交通の便も良いので、千葉県だけでなく東京都内からも多くの患者さんが来院されており、当院の周辺人口は100万人超と言われています。

樋口さん 100万人は多いですね。かなり広い地域をカバーする病院になっているのですね。

卜部先生 そうですね、現在22病棟785床で運営しています。三次救命救急センター、災害拠点病院であるとともに、がん、エイズ、脳卒中、急性心筋梗塞の拠点病院にもなっています。周産期母子医療センター、難病相談・支援センターも併設しています。
 当院には地域の医療連携の中心を担う基幹病院としての役割が期待されており、私たちもその自覚をもって日々の診療に取り組んでいます。また、順天堂大学の附属病院ということで、大学病院として高度医療の実践や、教育機関として医師などの医療従事者の育成も行っています。

地域医療連携について

樋口さん

樋口さん 地域医療連携について、どんな取り組みをされているのですか。

卜部先生 院内に「患者支援センター」があり、センターの中に地域医療連携をスムーズに進めるための「地域医療連携室」を設置しています。「地域医療連携室」では、地域の医療機関から紹介いただいた患者さんをお待たせしないで適切に治療できるよう、電話やFAXによる予約受付や受診いただく際のカルテの事前準備を行っています。そして、当院での検査や診断の結果、治療方針が決まり病状も安定している患者さんが、紹介いただいた医療機関に戻って治療を受けていただく、いわゆる「逆紹介」にも力を入れています。
 また、地域の医療機関の先生との情報交換も積極的に行っており、浦安病院で講演会や勉強会を企画して、近隣の開業医の先生たちとの交流を深めるように心がけています。一般市民の方に向けては、各診療科の協力のもと、年間10回ほど市民向けの講演会を開催しています。現代の医療全体の流れとして、「連携」は重要なキーワードの1つだと実感しているので、こうした活動を今後もさらに積極的に展開していきたいと考えています。

樋口さん 院外の先生との連携が重要なのですね。

卜部先生 はい。例えば、開業医の先生のところに、「右手がしびれている、動かしにくい」という患者さんが来られたときに、「これは専門医の診断が必要だな」と思ってスムーズに紹介状を書いてもらえるのが理想です。しかし、そういったときに紹介すべき診療科が、整形外科なのか、脳神経内科なのか、脳神経外科なのかの判断が難しい場合もあります。ですから、紹介された患者さんが当院に来られたときに、どの診療科で診察を受けていただくことが最適かを、院内の関係者が連携して判断していくことが重要です。

樋口さん 具体的にはどのように院内連携を進めておられるのですか。

卜部先生 「右手が動かしにくい」という訴えで脳神経内科に紹介されてきた患者さんがいらっしゃったら、まず患者さんからよくお話を聞きます。そこでいろいろ問診しながら、手が動かない原因が神経的な問題なのか、整形外科的なものなのかを判断して、神経系でなければすぐに整形外科に回っていただく、という流れになっています。もちろん、逆のパターンで整形外科から脳神経内科や脳神経外科に回ってくる場合もあります。そういった院内の連携が非常に大切で、その点で当院はスムーズな連携が行えていると思います。

浦安病院の脳神経内科とパーキンソン病の治療

卜部先生

樋口さん 浦安病院の脳神経内科についてもう少し詳しく教えてください。

卜部先生 脳神経内科では、年間約1,000人の入院患者さんと、のべ3万7,000人くらいの外来患者さんを8名の医師と看護師、薬剤師などからなるチームで治療をしています。脳神経内科の病床数は41で、入院患者さんの約半数が脳卒中です。次にパーキンソン病などの神経変性疾患が多いのですが、いずれもチーム医療が重要な病気です。

樋口さん パーキンソン病の治療はどのように進められているのでしょう。

卜部先生 パーキンソン病は神経変性疾患の中で唯一、対症療法が有効な病気だと言われています。専門医による早期診断と患者さんの症状に合った治療によって、以前よりもはるかに長く、よりよい日常生活をおくることができるようになっています。
 ただ、長く治療を続けていると、だんだんとお薬が効きにくい時間帯や、逆にお薬が効き過ぎる時間帯が出てくることがあります。このようなときにお薬の飲み方の調整を行いますが、L-ドパ持続経腸療法、脳深部電気刺激療法などの選択肢もあります。

樋口さん 最近、iPS細胞を実際の患者さんに移植するという研究も始まったそうですね。

卜部先生 iPS細胞治療や遺伝子治療を組み合わせた治療法も研究されています。ただ、iPS細胞のようなまったく新しい治療法が、実際に使えるようになるまでには、まだ相当時間がかかるでしょうね。

樋口さん そうしますと、現在ある治療方法をうまく使ってゆくことも大切ですね。

卜部先生 そうですね。パーキンソン病の早期の頃はそれほどでもないのですが、病気が進んで進行期に入ると症状の個人差が大きくなります。1つの治療法に対する効果のあらわれ方も患者さんによって違ってきます。ですから、「この治療法が絶対によい」と言うことは難しいのです。パーキンソン病にはさまざまな治療法がありますから、それぞれの特徴を活かして組み合わせ、患者さんのひとり一人の症状にあった「オリジナルブレンド」の治療を見つけて、不自由のない暮らしをできるだけ長く続けられるようにすることが大切だと思います。

「おかしいな」と思ったら医療機関へ

樋口さん

樋口さん 最後になりますが、患者さんが診察を受けられるときにどのようなことに気をつければよいでしょう。

卜部先生 私たち医療関係者は、患者さんに「こうしてほしい」とお願いする立場にはないのですが、お願いできるとしたら、問診のときに経過や症状について何でもお話しいただきたいですね。医師は患者さんのお話を手がかりに頭の中で診断や治療の方針を組み立てていきますが、特にパーキンソン病のように、患者さんによって症状がかなり異なる病気では、なるべく詳しく伝えていただけると助かります。それから、早期診断、早期治療が非常に重要ですので、日常生活の中で、「あれ、おかしいな」と思ったら、遠慮せずに医療機関で診察を受けていただきたいと思います。

樋口さん 実は私も、「おかしいな」と思ってから、パーキンソン病と診断されるまでに2年ほどかかりました。最初の症状が典型的なものではなかったこともあるのでしょうが、なかなか診断がつかず、最後は心筋シンチグラフィという検査でようやくパーキンソン病と分かりました。その意味でも「おかしいな」と思ったら迷わずに、浦安病院のような所で診察してもらうことが大切なのですね。
今日はどうもありがとうございました。

対談写真

樋口了一氏プロフィール

樋口了一氏

1964年、熊本県生まれ。立教大学在学中からバンド活動を始め、1993年に『いまでも』でデビュー。北海道テレビの「水曜どうでしょう」シリーズのテーマソングにもなった「1/6の夢旅人2002」を発表。歌手活動の傍ら、SMAPや郷ひろみさん、石川さゆりさんなどに楽曲を提供。2009年には「手紙〜親愛なる子供たちへ〜」で日本レコード大賞優秀作品賞などを受賞。ちょうど、代表曲「手紙」が大きな反響を呼んだ時期と重なって、ギターが弾きにくくなったり、声が思うように出せなくなったり、と体に異変を感じる。整体、鍼、整形外科、かみ合わせ、神経内科など14ヶ所もの病院へ行っても原因がわからないという経験をし、その後パーキンソン病と判明。現在もパーキンソン病と向き合いながら、アーティスト活動を続けている。